民法の事務管理について解説します。
事務管理とは
義務なく他人のために事務の管理を始めた者は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
民法697条 事務管理
事務管理とは、法律上の義務がないのに、他人のためにその事務を処理することをいいます。(民法第697条)
かんたんに言うと、「親切心からやってあげる行為」です。
たとえば、隣人Bが旅行に出ている際に台風が襲来し、隣人Bの家のガラスが割れた場合に、Aがそのガラスを修繕してあげる場合などが事務管理に該当します。
いったん事務管理を始めた場合には、管理者は本人またはその相続人、法定代理人が管理できるようになるまで、事務管理を継続しなければなりません。(民法第700条)
ただし、管理の継続が「本人の意思に反し」または「本人のため不利なこと」が「明らかなとき」は、事務管理を中止しなければなりません。(民法第700条但書)
事務管理には、委任の規定の多くが準用されます。(民法第701条)
事務管理者には、原則として善管注意義務が課せられます。(委任の規定の準用)
事務管理では、本人に対し費用の償還は請求できますが、報酬の支払は請求できません。(委任の規定の準用)
したがって、上の例でAは、Bに対して「ガラスを修繕したのだから、何かお礼をしてくれ」と要求することはできません。
管理者が本人のために有益な費用を負担した場合、管理者は本人に対して管理者に代わってその債務を弁済するよう請求できます。
しかし、債権者は本人に直接支払いを請求することはできません。
ただし、ガラス修繕に要した費用(ガラス代や工具等の有益費)は請求可能です。
緊急事務管理
管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
民法 第698条 緊急事務管理
管理者が本人の身体、名誉または財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をした場合は、悪意または重大な過失がない限り、これによって生じた損害賠償責任を負いません。(民法第698条 緊急事務管理)
したがって、たとえば心停止を起こして意識がない女性を救命するために、AEDを使うことを目的として、
上着やブラジャーを脱がすことになったとしても違法性は阻却され、損害賠償請求を受けることはありません。(刑法第37条 緊急避難と民法第698条 緊急事務管理により民事、刑事双方で責任を負わない)
命がかかっているので、一刻も早くAEDを使うため