刑法解説

私人逮捕について解説 要件を満たさないとできないよ

私人逮捕とは、警察官や検察官などの司法警察職員ではない一般人(私人)が、現行犯人を逮捕することを指します。

これは刑事訴訟法第213条によって認められている行為です。

私人逮捕が認められる根拠

刑事訴訟法第213条には「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と規定されています。これは、現に犯罪が行われている状況において、犯人を逃がしてしまうと逮捕が困難になるため、一般市民にも逮捕権を認めているものです。

私人逮捕の要件

私人逮捕が適法に行われるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

現行犯であること

逮捕しようとする人物が、現に罪を行い、又は罪を行い終わった直後であることが必要です。これには、「狭義の現行犯」と「準現行犯」が含まれます。

現行犯逮捕は、犯罪の実行中または終了直後の犯人を、逮捕状なしに逮捕することをいいます。

これは、犯人が目の前にいるという明白な状況において、迅速な逮捕を可能にするための制度です。

現行犯逮捕の具体的な例をいくつか挙げて説明します。

狭義の現行犯の例(犯罪の実行中または終了直後)

  • 万引き: 店内で商品を盗む行為を現認した場合。例えば、商品をカバンに入れた瞬間や、レジを通らずに店外に出ようとした瞬間などに逮捕することができます。
  • 痴漢: 電車内や公共の場で、他人の身体に不必要に触れる行為を現認した場合。被害者の申告と状況証拠が揃っている場合に逮捕できます。
  • 窃盗: 他人の家や建物に侵入し、金品を盗む行為を現認した場合。例えば、窓を割って侵入する瞬間や、物を持って逃げようとした瞬間などに逮捕できます。
  • 暴行: 他人に対して暴力を振るう行為を現認した場合。殴る、蹴るなどの行為を目撃した場合に逮捕できます。
  • 傷害: 他人に怪我を負わせる行為を現認した場合。暴行の結果、相手が怪我をした場合などに逮捕できます。
  • 器物損壊: 他人の物を壊す行為を現認した場合。例えば、他人の車を蹴って凹ませる行為などを目撃した場合に逮捕できます。

準現行犯の例(現行犯に準ずる状況)

  • 犯人として追呼されている場合: 例えば、店内で万引きをした犯人が店員に「泥棒!」と叫ばれながら追いかけられている場合、その犯人を一般人が取り押さえることができます。
  • 贓物(盗品)や犯罪に使用されたと思われる物を所持している場合: 例えば、盗まれたばかりのバッグを持っている人物が近くにいた場合や、明らかに凶器と思われるナイフを持っている人物が現場近くにいた場合などに、状況によっては逮捕することができます。ただし、単に所持しているだけでは不十分で、周囲の状況から犯人であると合理的に判断できる必要があります。
  • 身体や着衣に犯罪の明白な痕跡がある場合: 例えば、血の付いた服を着ている人物が殺人現場の近くにいた場合や、泥棒に入った家でできたと思われる泥が付着している人物が近くにいた場合などに、状況によっては逮捕することができます。

逮捕の必要性

現行犯人であっても、軽微な犯罪(例えば、30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪)の場合、犯人の住居や氏名が明らかでない場合、または犯人が逃亡するおそれがある場合に限って私人逮捕が認められます(刑事訴訟法第217条)。これは、軽微な犯罪であれば、逃亡のおそれが少ないため、私人逮捕の必要性が低いと考えられるためです。

私人逮捕の手順と注意点

  1. 現行犯の確認: まずは、目の前の行為が現行犯に該当するかどうかを冷静に判断する必要があります。誤認逮捕は不法行為となる可能性があります。
  2. 逮捕の実行: 逮捕は必要最小限の力で行う必要があります。過剰な暴力や拘束は違法行為となる可能性があります。
  3. 速やかに警察官に引き渡す: 逮捕後は、速やかに警察官に引き渡すことが義務付けられています(刑事訴訟法第214条)。いつまでも拘束し続けることは許されません。

私人逮捕における注意点

  • 誤認逮捕のリスク: 十分な確証がない状態で逮捕を行うと、誤認逮捕となる可能性があります。誤認逮捕は不法行為となり、損害賠償責任を負う可能性があります。
  • 過剰防衛・不法逮捕のリスク: 逮捕時に必要以上の力を行使した場合、過剰防衛や不法逮捕として罪に問われる可能性があります。
  • 自己の安全確保: 犯人が抵抗する場合も考えられます。無理に逮捕しようとせず、安全を確保することを最優先に行動しましょう。危険を感じた場合は、無理に逮捕しようとせず、警察に通報するだけでも十分です。
  • YouTuberなどの影響: 近年、YouTuberなどが「私人逮捕」を題材にした動画を配信するケースが増えていますが、安易な私人逮捕は非常に危険です。法律の要件を十分に理解し、慎重に行動する必要があります。

安易に行うべきではない

私人逮捕は、緊急時における市民の協力によって犯罪を防止するための制度ですが、その要件は厳格であり、誤った方法で行うと自身が罪に問われる可能性もあります。

安易な行動は避け、冷静な判断と適切な行動が求められます。

YouTubeで再生数稼ぎのために行うものではないです。

逮捕の状況になったとしても少しでも不安がある場合は、無理に逮捕しようとせず、警察に通報するのが賢明です。

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