病院開設中止解説事件について解説します。
司法試験、行政書士試験、公務員試験の受験生は全員が抑えているであろう重要判例です。
行政法では
- 行政指導に法律の根拠は不要
- 従うかは任意
- 処分性は認められない
と学びますが、例外的に行政指導に処分性があると認めたのがこの事件です。
病院開設中止勧告事件
病院開設中止勧告事件(最判平成17年7月15日)
事案概要
富山県知事が、病院を開設を計画しているXに対して、医療法30条の7の規定に基づき、「高岡医療圏における病院の病床数が、富山県地域医療計画に定める医療圏の必要病床数に達しているため」という理由で、申請に係る病院の開設を中止するよう勧告した。Xは勧告を拒否するとともに、速やかに本件申請に対する許可をするよう求める文書を送付した。富山県知事は、Xに対し「中止勧告にもかかわらず病院を開設した場合には、厚生省通知において、保険医療機関の指定の拒否をすることとされているので、念のため申し添える。」との記載がされた文書を送付した。そこで、Xは、富山県知事に対して、勧告の取消し、または本件通告処分の取消しを求めて出訴した。
争点
病院開設中止の勧告は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?
結論→あたる
判決文の一部
いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては,健康保険,国民健康保険等を利用しないで病院で受診する者はほとんどなく,保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実であるから,保険医療機関の指定を受けることができない場合には,実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる。このような医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果及び病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考えると,この勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52373
行政手続法の行政指導の一般原則
- 行政指導の一般原則(第32条)
- 行政指導の限界(1項)
- 任務、所掌事務の範囲を超えない。
- 任意の協力
- 不利益な取扱の禁止(2項)
- 行政指導の限界(1項)
- 行政指導の方式(第35条)
- 行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない(明確化原則 1項)。
- 求められた場合は、書面を交付しなければならない。(2項)
- 書面の交付の義務のない場合(3項)その場で完了する行為。通知されている事項と同一の内容。
- 複数の者を対象とする行政指導(第36条)複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政指導指針を定め、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。
- 行政指導指針:命令等に含まれ、同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項(第2条 8号)。