民法は、私たち国民の日常生活における権利や義務を定めた法律で、「私法」という分野に属します。
具体的には、個人と個人の間、つまり私人間の財産関係や家族関係(親子、夫婦など)を規律しています。
この民法には、いくつかの基本原則があり、これらの原則が民法全体の基盤となっています。主な原則は以下の通りです。
1 権利能力平等の原則
これは、「人はすべて平等に権利能力を有する」という原則です。権利能力とは、権利の主体(権利を持つことができる者)となる資格のことです。
かつては、身分や性別などによって権利能力に差がありましたが、現在の民法では、すべての人が平等に権利能力を持つとされています。これは、日本国憲法14条の「法の下の平等」の精神を受けたものです。
性別、年齢、国籍、職業などによって、権利を持つことが差別されることはありません。
権利能力平等の原則の詳細
- 法人も権利能力を持つ: 権利能力を持つのは自然人(人間)だけではなく、法律によって権利主体として認められた法人(会社、NPO法人など)も権利能力を持ちます。
- 権利能力の始期と終期: 自然人の権利能力は出生によって始まり、死亡によって終わります。胎児については、一定の範囲で権利能力が認められる場合があります(例:相続、不法行為に基づく損害賠償請求)。
- 権利能力と行為能力: 権利能力は権利の主体となる資格ですが、行為能力は単独で有効な法律行為(契約など)をすることができる能力です。未成年者や成年被後見人などは、行為能力が制限されています。
2 私的自治の原則
これは、「私的な事柄は、各人の自由意思に基づいて決定できる」という原則です。
具体的には、契約を自由に結んだり、自分の財産を自由に処分したりする自由などが含まれます。
この原則は、個人の自由を尊重する近代法の重要な柱の一つです。
誰とどのような契約を結ぶか、自分の物をどのように使うかは、原則として自分の自由です。
契約自由の原則(私的自治の原則の一内容)
私的自治の原則の中でも特に重要なのが、契約自由の原則です。
これは、「誰とどのような契約を、どのような内容で結ぶかは、原則として自由である」という原則です。
契約自由の原則には、以下の4つの自由が含まれます。
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- 契約締結の自由: 誰と契約するかどうかを自由に決められる。
- 契約内容の自由: どのような内容の契約を結ぶかを自由に決められる。
- 契約方式の自由: どのような方式で契約を結ぶかを自由に決められる(口約束でも契約は成立するのが原則)。
- 契約終了の自由: 合意に基づいて契約を終了させることができる。
ただし、契約自由の原則は無制限ではなく、公序良俗(民法90条)に反する契約や、強行法規(守らなければならない法律)に反する契約は無効となります。
人を脅して契約させたり、法律で禁止されている内容の契約を結んだりすることはできません。
契約自由の原則の具体例
- 売買契約:物をいくらで誰に売るかを自由に決めることができます。
- 賃貸借契約:家賃をいくらにするか、契約期間をどうするかなどを自由に決めることができます。
- 贈与契約:誰に何を贈与するかを自由に決めることができます。
契約自由の原則の制限
- 公序良俗(民法90条): 社会の一般的な道徳観念に反する契約は無効です(例:賭博契約、不倫契約)。
- 強行法規: 法律によって内容が強制されている規定に反する契約は無効です(例:労働基準法に違反する労働契約)。
- 消費者契約法: 消費者を不当な契約から守るための法律で、事業者に一方的に有利な契約条項は無効となる場合があります。
- 独占禁止法: 不公正な取引方法を禁止し、自由な競争を促進するための法律で、これに反する契約は無効となる場合があります。
3 所有権絶対の原則
- これは、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物を使用、収益および処分する権利を有する」という原則です。(民法206条)
- 自分の物を自由に使い、そこから利益を得(例えば、賃貸して家賃を得)、自由に処分(例えば、売る、譲る)することができます。
- ただし、所有権も無制限ではなく、公共の福祉(例えば、都市計画法や建築基準法など)によって制限される場合があります。
- 例:自分の土地であっても、自由に建物を建てられるわけではなく、建築基準法などの規制に従う必要があります。
所有権絶対の原則の具体例
- 所有する家を自由に使う、人に貸す、売る、取り壊すなどができます。
- 所有する物を自由に加工したり、廃棄したりすることができます。
所有権絶対の原則の制限
- 公共の福祉: 都市計画法、建築基準法、環境保護法などによって、所有権の行使が制限される場合があります。例えば、自分の土地であっても、自由に高層ビルを建てられるわけではありません。
- 相隣関係: 隣の土地との関係で、一定の制限を受けます(例:境界線付近での建築制限、竹木の枝の切り取り請求権)。
4 過失責任の原則
- これは、「自分の過失(不注意)によって他人に損害を与えた場合に、その損害を賠償する責任を負う」という原則です。
- 故意(わざと)に損害を与えた場合はもちろん、不注意によって損害を与えた場合にも責任を負うことになります。
- ただし、例外的に無過失責任(過失がなくても責任を負う)という場合もあります(例:製造物責任)。
- 例:運転中に不注意で事故を起こして他人に怪我をさせた場合、損害賠償責任を負います。
5 信義誠実の原則(信義則)
- これは、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」という原則です。(民法1条2項)
- 相手の信頼を裏切るような行為をしてはならず、誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならないという意味です。
- 具体的な内容は抽象的ですが、民法全体の解釈や適用において重要な役割を果たしています。
- 例:契約交渉において、嘘をついたり、重要な情報を隠したりしてはなりません。
まとめ
これらの原則は、民法を理解する上で非常に重要です。これらの原則を基に、具体的な法律の規定が解釈・適用されます。