憲法判例

マクリーン事件について解説 外国人に対する人権

外国人の権利保障と国家主権のバランスという難題に、日本の司法がどのような判断を下したのか。

1978年、最高裁判所はマクリーン事件において、外国人の在留資格と政治活動の自由をめぐり、重要な判決を下しました。

本稿では、マクリーン事件の概要とその争点、判決内容、そしてその後の社会に与えた影響について詳しく解説します。

マクリーン事件の概要

1970年、アメリカ国籍のブルース・マクリーンは語学教師として日本にやってきました。

マクリーンは日本語を学び、琵琶と琴に魅了され、日本の文化に深く傾倒していく中で、将来はアメリカの大学でアジア音楽の教授になるという夢を抱くようになりました。

そのため、日本での英語教育と並行して琵琶と琴の研究を続ける必要があり、1年間の在留期間の更新を申請。

しかし、法務大臣はマクリーン氏の申請を認めず、120日間の更新のみを許可しました。

その理由は、マクリーン氏が「許可を得ずに転職した」こと、そして「政治活動(ベトナム戦争反対運動や日米安保条約反対運動など)に参加していた」ことにありました。

マクリーン氏は再度、更新を申請しましたが、今度は不許可処分を受けました。

そこで、マクリーンは法務大臣の不許可処分を不服として、裁判を提起しました。

マクリーン事件の争点

マクリーン事件は、外国人の権利と国家の権限がぶつかり合う、複雑な問題を孕んでいました。裁判では、主に以下の3点が争点となりました。

  1. 外国人に日本に在留する権利は、憲法で保障されているのか。
  2. 在留期間の更新について、法務大臣はどの程度の裁量権を持っているのか。
  3. 外国人は、日本で政治活動の自由をどのように行使できるのか。

マクリーン事件の判決内容

最高裁判所は、マクリーン氏の訴えを棄却しました。 判決では、以下の3点について判断が示されました。  

  1. 外国人は、憲法上、日本に在留する権利、あるいは引き続き在留することを求める権利を保障されていない。
  2. 出入国管理令21条3項に基づく在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかの判断は、法務大臣の裁量に委ねられています。 上陸拒否事由または退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り、更新を不許可にすることは許されません。  
  3. 外国人の政治活動の自由は、日本の政治的意思決定やその実施に影響を及ぼす活動など、外国人の立場から見て認めることが適切ではないと判断されるものを除き、保障されます。 在留中の外国人の行為が合憲で合法な場合でも、法務大臣がその行為を日本にとって好ましくないと評価したり、その行為から将来、日本に害を及ぼす行為を行う恐れがあると推認したりすることは、その行為が憲法で保障されているからといって妨げられるものではありません。  

マクリーン事件の法的意義

マクリーン事件は、外国人の人権保障に関する重要な判例となり、その後の議論に大きな影響を与えました。 この判決は、外国人の在留資格について、法務大臣に広範な裁量権を認める一方で、外国人の人権保障にも一定の配慮を示したという点で、画期的なものでした。  

具体的には、この判決は、外国人の人権保障について、以下のような法的意義を有しています。

  • 外国人にも憲法の保障が及ぶことを明確にしました。ただし、権利の性質上、日本国民のみを対象とするものを除くとしています。  
  • 外国人の在留資格については、国際法や人権条約の規定を考慮する必要があることを示唆しました。  
  • 行政裁量の範囲について、一定の制限を設ける必要性を示しました。  
  • 外国人在留制度においては、下位法であるはずの出入国管理及び難民認定法が、上位法であるはずの憲法の前提となってしまっているというパラドックスを浮き彫りにしました。  

マクリーン事件に関する学説の対立

マクリーン事件の判決に対しては、学説上、様々な意見が出されています。 大きく分けると、以下の2つの立場に分けられます。  

  • 基本的人権優位説: 外国人の人権を、日本国民と同様に広く保障すべきであるとする立場。 この立場からは、マクリーン事件の判決は、外国人の人権を過度に制限するものとして批判されます。  
  • 出入国システム優位説: 国家主権の観点から、外国人の人権保障は、出入国管理制度の枠内にとどまるべきであるとする立場。 この立場からは、マクリーン事件の判決は、国家主権と出入国管理の重要性を適切に考慮したものとして評価されます。  

マクリーン事件は、「基本的人権優位説」から「出入国システム優位説」への転換をもたらしたという点で、学説上も重要な意味を持つ判例と言えるでしょう。

これらの対立は、外国人の人権保障と国家主権のバランスという、現代社会における重要な問題を提起しています。  

マクリーン事件のその後の判例への影響

マクリーン事件は、その後の外国人の人権保障に関する判例に大きな影響を与えています。

例えば、難民認定に関する判例において、マクリーン事件の判決が引用され、難民の権利保護の必要性が強調されるようになっています。

また、外国人に対する刑事裁判の判例においても、マクリーン事件の判決を踏まえ、外国人の権利保障に配慮した判断が示されるようになっています。  

結論

マクリーン事件は、外国人の人権保障と国家主権のバランスという難しい問題に対し、最高裁判所が一定の判断を示した重要な判例です。

この判決は、その後の外国人の人権保障に関する議論の出発点となり、現在もなお、外国人を取り巻く法的環境を考える上で重要な意味を持っています。

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