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憲法判例 尊属殺重罰規定違憲判決解説 - 親殺しの罪を一般殺人と区別して、法律上の加重要件とする規定は合憲である(昭和48年4月4日)

尊属殺の画像

事件概要

行政書士試験では、頻出の判例です。

事件名尊属殺重罰規定違憲判決
※「栃木実父殺し事件」とも
判決日昭和48年4月4日
サクッと結論尊属殺の重罰規定が死刑か無期懲役しかない刑法第200条の規定は、憲法14条1項(法の下の平等)に反し違憲である。
ただし、通常殺より罪の重い尊属殺の規定自体は合理性があり違憲ではない。
裁判所判例URLhttps://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51807

尊属に対する殺人を、高度の社会的非難に当たるものとして一般殺人とは区別して類型化し、法律上の加重要件とする規定を設けることは、それ自体が不合理な差別として憲法に違反する

→妥当でない選択肢として出題

2016年 行政書士試験 問7

最高裁が法律を違憲とした初めての判決です。(法令違憲判決と呼びます)

法令違憲判決は他にも当サイトで紹介しているので、本記事読了後ご一読ください。

事件内容が強烈なため、市販のテキストの解説は結構省略されている場合が多いです。

以下事案ですが、読むだけでも辛い部分があるので、深呼吸をしながら読んでいきましょう。

事案

被告人の女性A(当時29歳)は、14歳の時から実父B(当時53歳)によって性的虐待を継続的に受けていた。

その内容は、近親相姦を強要されて父娘の間で5人の子供を出産し、夫婦同然の生活を強いられ、逃げ出せば暴力によって連れ戻されるという残酷なものであり、同居していた妹へ被害が及ぶのを恐れ、Aは逃亡も諦めていた。

そうした中、女性Aに職場で相思相愛の男性が現れ、結婚の機会が巡ってきた。

Aが実父Bにその男性と結婚したい旨を打ち明けたところ、実父Bは激怒し、Aを自宅に監禁した。

その間にも実父Bは女性Aに性交を強要した上、罵倒するなどした。

監禁10日目、実父Bはもし家を出るならAや子供らを殺害すると叫びながらAに襲いかかった。

Aは、自身が実父Bとの関係を終わらせ、結婚をするためには、もはや殺害するしかないと考え、とっさに枕元にあった腰紐を取り、実父Bを絞殺した。

補足

被告人弁護士が高裁判決後にガンで倒れ、最高裁からは息子が弁護を引き継いだそうです。

なんとしてでも女性の罪を無くそうと奮闘した、親子2代の闘いです。

判決のポイント

刑法二〇〇条の立法目的は、尊属を卑属またはその配偶者が殺害することをもつて一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし、かかる所為を通常の殺人の場合より厳重に処罰し、もつて特に強くこれを禁圧しようとするにあるものと解される。

ところで、およそ、親族は、婚姻と血縁とを主たる基盤とし、互いに自然的な敬愛と親密の情によつて結ばれていると同時に、その間おのずから長幼の別や責任の分担に伴う一定の秩序が存し、通常、卑属は父母、祖父母等の直系尊属により養育されて成人するのみならず、尊属は、社会的にも卑属の所為につき法律上、道義上の責任を負うのであつて、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。

しかるに、自己または配偶者の直系尊属を殺害するがごとき行為はかかる結合の破壊であつて、それ自体人倫の大本に反し、かかる行為をあえてした者の背倫理性は特に重い非難に値するということができる。

このような点を考えれば、尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるとして、このことをその処罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない。

そこで、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもつてただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがつてまた、憲法一四条一項に違反するということもできないものと解する。

さて、右のとおり、普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を加重すること自体はただちに違憲であるとはいえないのであるが、しかしながら、刑罰加重の程度いかんによつては、かかる差別の合理性を否定すべき場合がないとはいえない。

すなわち、加重の程度が極端であつて、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならない。

この観点から刑法二〇〇条をみるに、同条の法定刑は死刑および無期懲役刑のみであり、普通殺人罪に関する同法一九九条の法定刑が、死刑、無期懲役刑のほか三年以上の有期懲役刑となつているのと比較して、刑種選択の範囲が極めて重い刑に限られていることは明らかである。

(中略)

もとより、卑属が、責むべきところのない尊属を故なく殺害するがごときは厳重に処罰すべく、いささかも仮借すべきではないが、かかる場合でも普通殺人罪の規定の適用によつてその目的を達することは不可能ではない。

(中略)

量刑の実状をみても、尊属殺の罪のみにより法定刑を科せられる事例はほとんどなく、その大部分が減軽を加えられており、なかでも現行法上許される二回の減軽を加えられる例が少なくないのみか、その処断刑の下限である懲役三年六月の刑の宣告される場合も決して稀ではない。このことは、卑属の背倫理性が必ずしも常に大であるとはいえないことを示すとともに、尊属殺の法定刑が極端に重きに失していることをも窺わせるものである。

このようにみてくると、尊属殺の法定刑は、それが死刑または無期懲役刑に限られている点(現行刑法上、これは外患誘致罪を除いて最も重いものである。)においてあまりにも厳しいものというべく、上記のごとき立法目的、すなわち、尊属に対する敬愛や報恩という自然的情愛ないし普遍的倫理の維持尊重の観点のみをもつてしては、これにつき十分納得すべき説明がつきかねるところであり、合理的根拠に基づく差別的取扱いとして正当化することはとうていできない。

以上のしだいで、刑法二〇〇条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法一九九条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならず、したがつて、尊属殺にも刑法一九九条を適用するのほかはない。この見解に反する当審従来の判例はこれを変更する。

----判決主文より

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