民法解説

【民法】即時取得について詳しくわかりやすく 判例も紹介

今回は民法物権法の即時取得について解説します

※令和6年5月24日施行の民法に基づいて解説しています。

即時取得とは

即時取得は民法第192条に規定されており

「取引行為によって平穏に、かつ公然と動産の占有を始めたものは善意であり、かつ過失がないときは即時にその動作について行使する権利を取得する」という条文になっています

わかりやすく言うなら即時取得というのは

「動産を買ったりもらったりしてそれが自分のものになったと信じて使っている場合それが本当に自分のものになる」という制度です。

動産というのは不動産以外の物のことです

例えば、Aさんが高級腕時計を21歳の息子Bさんに貸したとします。

Bさんは、お金欲しさにその腕時計をCさんに売ってしまいました

Cさんがその腕時計を善意無過失で取得したなら、その腕時計の権利を取得して本物の持ち主になります。

こうなってしまうと、AさんはCさんに対して腕時計の引き渡しの要求ができません

AさんがCさんから取り戻すには、所有権に基づく動産引渡請求の訴訟を起こす必要があります

ではなぜこのような即時取得の制度があるのかと言うと

日常生活でコンビニだったりスーパーだったり本屋だったり家電量販店だったりなどで動産の取引は極めて頻繁に行われていて

取引の度に「この商品は本当にこの人のものなのか」と疑って検証するのはあまりに面倒で動産の取引が円滑にできなくなってしまいます。

そこで公信の原則を採用して、信頼通りの権利取得をさせるのが即時取得制度です。

即時取得の要件

即時取得の要件は5つです

  1. 動産であること
  2. 有効な取引であること
  3. 前主(ぜんしゅ)が無権利ないし無権限であること
  4. 平穏、公然、善意、無過失であること
  5. 取得者が占有を開始すること

それぞれ解説していきます

要件1 動産であること

取引の対象は動産である必要があります。

動産というのは物のことです。

即時取得の対象に不動産は含まれません。

なぜなら、不動産には登記制度があり権利者が表示されているので即時取得を認める意味がないからです。

また、登記登録制度のある動産、例えば自動車や航空機、建設機械なども公的な登録がされているので即時取得はできません。

ただし、登記登録制度のある動産でも未登録、未登記、登録を抹消されたものは即時取得の対象となります。

例えば、車やバイクは原則として即時取得の対象になりませんが、ナンバープレートをつける前のような状態であれば即時取得が認められます。

逆に、 道路運送車両法による登録を受けていない自動車については、即時取得の適用があるという判例があります。(最判昭和45年12月4日)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53202

つまり所有者が公に明らかになっているかどうかで即時取得の対象になるか決まります。

要件2 有効な取引であること

即時取得が成立するには、有効な取引が存在している必要があります。

したがって、取引のない相続では即時取得は認めらません。

木を伐採して持ち帰ったとか、取引自体が無効な場合も即時取得は認められません。

有効な取引

  • 代物弁済
  • 贈与
  • 強制競売による買受
  • 指図による占有移転による取得

などがあります。

有効ではない取引

  • 相続による取得
  • 拾得
  • 間違えて他人の山林を伐採したとき
  • 制限行為能力者との取引
  • 無権代理人との取引
  • 取引自体が無効の場合
  • 金銭
  • 占有改定による取得

などでは、即時取得は成立しません。

占有改定についておさらい

ここで占有改定についておさらいをしたいと思います

占有改定というのは物の引渡しの方法の一つで、「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは本人はこれによって占有権を取得する」という条文で、民法の第183条に規定されています。

占有改定で即時取得が認められないのは、外部から見て占有が移ったことがわからないからです。

ただこれにも例外があって制限行為能力者、無権代理人が前主(前主)ではなく、これらの者からの譲受人が前主(ぜんしゅ)である場合は動産を譲り受けた転得者は即時取得の適用を受けます

このイラストのような例だと、成年被後見人から時計を譲り受けた転得者がいて、その転得者から譲り受けた人がいたとしたら、即時取得は成立しません

要件3 平穏、公然、善意、無過失であること

平穏とは暴力的でないことを言います。

公然は占有を隠していないことをいいます。

善意とは、取引の相手方に権利があると信じていたことをいいます。(法律用語としては、親切という意味ではありません)

平穏と公然と善意は、民法第186条の1項で推定されます。

無過失というのは落ち度がないことです。

無過失は民法第188条によって推定されます。

判例も無過失の推定を肯定しています。

即時取得を否定するには成立を争う人がその推定を覆す立証責任を負うことになります。

即時取得で取得した人が立証する必要はありません。

要件4 前主が無権利者であること

無権利者(無権限者)からの取得しか、即時取得では保護されません。(これは条文には明記がないです)

前主(直接の取引相手)が制限行為能力者や、無権代理人である場合などは、即時取得を認めると、

制限行為能力者・無権代理の本人を保護する規定に存在する意味がなくなっちゃうからです

ただし、制限行為能力者や無権代理人が前主(直接の取引相手)ではなく、これらの者からの譲受人(転得者)が前主である場合には、前主自体は無権利者なので、動産を譲り受けた転得者は即時取得の適用を受けます。

要件5 取得者が占有を開始すること

この占有開始には、現実の引渡しと簡易の引渡しは当然含まれます。

また、指図による占有移転は判例で肯定されています。(最判昭和57年9月7日)

一方で、占有改定については、判例では「占有開始に含まれない」とされています。(最判昭和32年12月27日)

これはなぜかというと、占有改定による占有取得は物が動かないので外から判断しにくいからです。

盗品・遺失物の特則

ここまでが即時取得の要件ですが、取得物が盗品や遺失物の場合のための特殊な規定があります

これを盗品・遺失物の特則と言います

即時取得されたものが盗品または遺失物であった場合、盗まれたものとか紛失したものだった場合は盗難遺失の時から2年間に限って、被害者や遺失者は物を取り戻すことができます(民法第193条)

このイメージのようにAさんの時計がBさんによって盗まれて、BさんがCさんに対してその時計を贈与したとします

Cさんには時計の即時取得が成立しますが

時計の所有者のAさんが、盗まれた自分の時計がCさんのもとにあるとわかったときは、その盗難の時から2年間は返還の請求ができます

この返還請求はこのイメージのような場合は無償でできます

お金を払わないといけない場合もあります

占有者が盗品または遺失物を競売もしくは公の市場においてまたはそのものと同種のものを販売する商人から善意で買い受けたときは、被害者または遺失者は占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができません(民法第194条)

このイメージで解説すると

時計の所有者のAさんがBさんにその時計を盗まれて、BさんがリサイクルショップCに対してその時計を10万円で売りました。

リサイクルショップCは10万円で買い取りました

Aさんが自分の時計がそのリサイクルショップCで売られているとわかったらこの場合はAさんはCさんに10万円支払って取り返さないといけません

無償で取り返すことはできません。

要するに、Cが支出した金額をAも負担しなければいけません。

まとめ

民法の即時取得と盗品・遺失物の特則について解説しました。

指図による占有移転と占有改定については学説で争いがあります。

試験対策では判例の結論通り指図による占有移転は含まれる、占有改定は含まれないと覚えておけばOKです。

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