民法解説

【民法】事務管理の要件と効果について分かりやすく解説

今回は、民法の事務管理について解説します。

※本記事は令和6年5月24日に公布された民法に基づいて解説しています。

事務管理には普通の事務管理と、緊急事務管理の2つがあります。

両者は一部の規定が異なるだけなので、そのポイントごとに解説していきます。

事務管理とは

事務管理は、簡単に言うなら「おせっかいの行為」です

義務なく他人のために事務の管理を始めた者は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理をしなければならない。

2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

民法第697条 事務管理

事務をする者を管理者と呼び、事務の管理を受けた者を本人と呼びます。

事務管理の例として、たとえば

  • 認知症の高齢者が徘徊しているのを見て、その高齢者に付き添って、家族の元へ連れていってあげる行為
  • 迷子の犬を、飼い主が来るまで保護してあげる行為
  • 台風襲来で破損した隣人宅のガラスを、修繕してあげる行為
  • 川に溺れている人を救助する行為

などがあります。

事務管理には、委任契約の規定の一部が準用されます。

また、管理者は、本人に対して報酬を請求することができません。

正確には、報酬に関する規定がありません。

なので、管理者が川に溺れている人を救助したとしても、「救助したのだから1万円払え」と報酬を請求することはできません。

後ほど解説しますが、事務管理を行った場合に、管理者が請求できるのは有益費のみです。

事務管理の意義

なぜこのようなお節介な規定があるのか解説します

本来であれば、人は、他人の身体・財産に介入すべきではありません。

しかし、社会生活を営んでいると、他者を助けてあげる場面が出てきます。

そのような場面で、他人のために事務を管理した者を、法で保護するのが事務管理の制度です。

つまり、他人を守るためにやったことであれば、不法行為の責任がなくなり、おせっかいをした人は、責任が問われなくなります。

事務管理の効果

事務管理の効果を解説します。

事務管理では、管理者が行った不法行為の違法性が阻却(そきゃく)されます。

阻却というのは、退けるという意味です。

先ほどの例で言うと、台風襲来で破損した隣人宅のガラスを修繕するために、隣家に入り込むことは、不法侵入になる可能性がありますが、事務管理の効果によって、違法性がなくなり、不法行為は成立しなくなります。

事務管理の要件

事務管理の要件は、4つです

  • 管理者に法律上の義務がないこと
  • 管理者が他人の事務を管理すること
  • 管理者が本人のためにする意思をもっていること
  • 管理者による管理が本人の意思または利益に適合したものであること

他人には、法人も含まれるとされています

管理者が本人を特定していなくても事務管理が成立します。

また、他人のためにする意思と自己のためにする意思が併存していても事務管理は成立します。

管理者に発生する義務

事務管理を開始することで、管理者にいくつかの義務が発生します。

管理者の義務は次の7つです

  1. 本人の意思尊重義務
  2. 善管注意義務
  3. 管理継続義務
  4. 管理開始通知義務
  5. 報告義務
  6. 受取物の引き渡し義務
  7. 権利の移転義務義務
  8. 利息・損害賠償義務

それぞれ順番に解説していきます

1 本人の意思尊重義務

管理者の義務1つめは、本人の意思尊重義務です。

管理者は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によってその事務の管理をしなければなりません。(民法第697条1項)

この義務に違反すると、管理者は債務不履行責任を負うことになります。

管理者は、本人の意思を知っているときまたは、これを推知できるときは、その意思に従って、事務管理をしなければいけません。(民法第697条2項)

事務管理では、本人の意思を尊重しなければいけません。

2 善管注意義務

管理者の義務2つめは、善良な管理者の注意義務です。

これは、民法第644条、民法第698条の反対解釈から導かれます。

管理者は、管理の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、管理事務を処理する義務を負います。

「善良な管理者の注意義務」は、善管注意義務とも呼びます。

善管注意義務とは「一般的・客観的に要求される程度の注意をしなければならない」という注意義務のことで、わかりやすくいうなら、「ちゃんと注意して管理しようね、という」レベルの注意義務です。

なぜかというと、他人の領域に介入する以上、その事務は注意深く行うべきだからです。

ただし、例外として、緊急事務管理では、この注意義務が軽減されます。

管理者は、本人の身体、名誉または財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意または重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負いません。(民法第698条)

たとえば、応急手当を行う緊急の事態において、単なる通行人が倒れている人に手当てをする場合、一般人の注意義務は、医師の行う医療行為のレベルの注意義務が要求されることはありません。

この場合、単なる通行人は一般人を基準とした通常の注意義務を尽くしていれば、損害賠償責任は発生しないことになります。

3 管理継続義務

管理者の義務3つめは、管理継続義務です。

民法700条、管理者は、本人又はその相続人、もしくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければなりません。

要するに、いいかげんな管理は許されません。

なぜかというと、一度管理を開始した以上、中途半端に放棄をすると、本人に損害が発生するおそれがあるからです。

ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、この限りでなく、管理を中止しなければなりません。

ですが、本人の意思がわからない場合や本人の意思が強行法規、公序良俗に違反するものである場合のときもあります。

たとえば、自殺しようとしている人を止めようとする場合には、本人の意思にかかわりなく、事務管理の継続が許されるとした判例があります。(大判大正8年4月18日)

事務管理の継続が本人の意思に反していても、例外的に事務管理の継続が許される場合もあります。

4 管理開始通知義務

管理者の義務4つめは、管理開始通知義務です。

管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければなりません。ただし、本人が既にこれを知っているときは、この限りでありません。(民法第699条)

これはなぜかというと、事務管理を開始すると本人に利益や損害が発生するので、管理者がそのことを本人に伝えることが適切だからです。

この義務に違反した場合には、管理者債務不履行責任を負います。

5 報告義務

管理者の義務5つめは、報告義務です。

管理者は、本人からの請求があるときは、いつでも事務管理の処理の状況を報告し、事務管理が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければなりません。(民法645条、民法701条)

これは委任の規定の準用です。

6 受取物の引き渡し義務

管理者の義務6つめは、受領物の引き渡し義務です。

管理者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭、その他の物を本人に引き渡さなければなりません。その収取した果実についても同様です。(民法第646条、民法第701条)

これは委任の規定の準用です。

事務管理は本人のために行うものであり、本来本人に帰属すべきものは、本人に渡すべきだからです。

7 権利の移転義務

管理者の義務7つめは、権利の移転義務です。

管理者は、本人のために自己の名で取得した権利を、本人に移転しなければなりません。(民法第646条2項、民法第701条)

これは委任の規定の準用です。

事務管理は本人のために行うものであり、本来本人に帰属すべき権利は、本人に渡すべきだからです。

8 利息・損害賠償義務

管理者の義務8つめは、利息・損害賠償義務です。

管理者は、本人に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければなりません。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負います。(民法第647条、民法第701条)

ここまでが、事務管理において発生する管理者の義務です。

本人に発生する義務

次は、本人に発生する義務を解説します。

本人に発生する義務1、費用償還義務

本人の義務1つめは、費用償還義務です。

管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができます。(民法第702条)

償還とは、管理者が支出した金額を本人が返却、支払うことです。

有益な費用とは物の価値を増加させるために支出した費用のことです。

たとえば、Aさんの家の窓ガラスが、Aさん不在中に襲来した台風によって破損した場合に、隣人Bさんがその窓ガラスを修繕するために支出した修繕費が有益費にあたります。

有益性の有無、範囲の判断は支出時を基準とします。

なので、支出時の修繕費が1万円だったとしても、償還時に割引キャンペーンで8000円の価格になっていたとしても、支出した金額である1万円を償還しなければいけません。

民法702条3項には、管理者が本人に償還請求できる権利について規定されています。

管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、本人に対し、費用の償還を請求することができます。(民法第702条3項)

なので、本人の意思に反する事務管理であっても、本人に対して費用の支払いを請求できないわけではありません。本人が望んでいない事務管理だったとしても、管理人は、本人に対して報酬を請求できないだけで、本人が現に利益を受けている限度の費用の請求ができます。

債務弁済義務

本人の義務2つめは、債務弁済義務です。

管理者は、事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、本人に対し、自己に代わってその弁済をすることを、請求することができます。この場合において、その債務が弁済期にないときは、本人に対し相当の担保を供させることができます。(民法第650条2項、第702条2項)

以上が、事務管理における本人の義務です。

まとめ

  • 事務管理は、いうなれば、おせっかいな親切の管理行為です
  • 事務管理の対象には法人も含まれます
  • 事務管理は、本人が特定されていなくても成立します
  • 事務管理は、管理者と本人の利益が併存していても成立します
  • 事務管理では、管理者は善管注意義務を負います
  • 緊急事務管理では、管理者の注意義務は軽減されます
  • 事務管理には、委任の規定が一部準用されます
  • 事務管理では、管理者は本人に報酬を請求することができません
  • 事務管理が本人の意思に反していたとしても、管理者は、本人に対して、現存利益の範囲で費用を請求できます

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