民法解説

【民法】内縁と婚姻の違いについてわかりやすく解説

近年、婚姻届を提出せずに夫婦と同様の共同生活を送る「内縁」と呼ばれる関係を選択する人が増えています。内縁は、法的には「事実婚(じじつこん)」 とも呼ばれ、婚姻届を提出しないものの、社会通念上夫婦と認められる男女関係を指します 。しかし、内縁は法的にどのような扱いを受けるのか、婚姻とはどのような違いがあるのか、十分に理解している人は少ないのではないでしょうか。  

この記事では、民法における内縁の定義、成立要件、法的効果、そして婚姻との違いについて詳しく解説します。具体的な事例や判例も交えながら、内縁に関する法的知識を深めていきましょう。

内縁とは

内縁(事実婚)とは、婚姻届を提出していないものの、社会通念上夫婦と認められる男女関係を指します 。法的には「婚姻」とは区別されますが、事実上の夫婦として共同生活を営む男女関係を「内縁」と呼びます 。内縁は民法に明文の規定はありませんが、判例や法解釈によって認められています 。  

内縁関係にある男女は、法律婚の夫婦に準じた権利義務を有するとされています 。これは、事実上の夫婦の共同生活継続中の関係を、婚姻に準じた法律関係として法的保護を認めるという「準婚理論」に基づいています 。ただし、相続や子の親子関係など、法律婚の夫婦とは異なる点も存在します。また、内縁と婚姻の法的扱いの違いについては、憲法24条(婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し~)に違反するのではないかという議論もあります 。  

内縁の成立要件

内縁関係が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 婚姻の意思があること: 双方が将来結婚する意思を持って共同生活を始める必要があります 。  
  • 夫婦同然の共同生活の実態があること: 単なる同棲とは異なり、生計を共にする、家事を分担するなど、社会通念上夫婦と認められるような生活を送っている必要があります 。  
  • 社会的に夫婦と認められていること: 周囲から夫婦として認識されていることが必要です 。  

これらの要件を満たしているかどうかは、客観的な事情から判断されます。例えば、賃貸借契約書や住民票に「内縁の妻」などと記載されている場合 、健康保険の被扶養者になっている場合などは、内縁関係が成立していると認められやすくなります。  

具体的には、保険会社が内縁関係を認める条件としては、以下のようなものが挙げられます 。  

  • 同居: 同じ住所に住んでいる。
  • 生計を共にしている: 生活費を共同で負担している。
  • 婚姻の意思: 将来的に結婚する意思がある。
  • 社会的な承認: 周囲から夫婦として認められている。

内縁関係の解消事由

内縁関係は、当事者の一方が死亡した場合や、双方の合意によって解消されます。また、一方的な意思表示によっても解消することができます 。  

ただし、内縁関係の解消理由や態様によっては、不当な理由で解消したことに対する慰謝料の支払義務が発生する可能性があります 。例えば、一方的に内縁関係を解消した場合や、相手に不貞行為があった場合などは、慰謝料請求が認められることがあります 。  

内縁の法的効果

内縁関係にある男女には、法律婚の夫婦に準じた法律上の権利義務が生じます。具体的には、以下の点が挙げられます。

  • 日常生活における扶助義務: 互いに協力し、扶助する義務があります。これは、夫婦間で協力し助け合うという、法律婚における夫婦の扶助義務(民法752条)に類似した義務と考えられます。
  • 婚姻費用分担義務: 生活費を分担する義務があります。これは、夫婦が共同生活を営む上で必要な費用を、それぞれの収入に応じて分担するという、法律婚における婚姻費用分担義務(民法760条)に類似した義務と考えられます。
  • 不貞行為に対する慰謝料請求: 相手に不貞行為があった場合、慰謝料を請求することができます 。これは、法律婚における夫婦の一方が不貞行為を行った場合に、他方が慰謝料を請求できるのと同様です。  
  • 財産分与: 内縁関係が解消された場合、共有財産を分与することができます 。内縁関係における財産分与は、法律婚における財産分与(民法768条)と同様に、共有財産をそれぞれの貢献度に応じて分けるという考え方です。  
  • 扶養: 社会保険の扶養に入れる場合があります 。  
  • 遺族年金: 一定の要件を満たせば、遺族年金を受給できる場合があります 。  

ただし、内縁関係はあくまでも「婚姻に準じた」関係であるため、法律婚の夫婦と全く同じ法的効果が生じるわけではありません。

内縁と婚姻の違い

内縁と婚姻の主な違いは以下の点が挙げられます。

項目内縁婚姻デメリット
法的根拠判例・法解釈民法-
成立要件婚姻の意思、夫婦同然の共同生活、社会的な承認婚姻届の提出証明が難しい場合がある
氏の変更変更なし戸籍の筆頭者になる方の氏に変更-
法定相続人なれないなれる相続できない
子の親子関係当然には父子関係は生じない(認知が必要) 当然に父子関係が生じる認知の手続きが必要
親権父母の協議で決める 父母の協議で決める-
相続相続できない(遺言があれば可能) 相続できる相続権がない
財産分与内縁関係中の共有財産は可能 婚姻中の共有財産は可能-
遺族年金一定の要件を満たせば受給できる 受給できる受給要件が厳しい
慰謝料請求請求できる 請求できる-

内縁関係では、法律婚の夫婦のような法的保護を受けられない場合があります。例えば、内縁の妻は法律上の相続人ではないため、相続権がありませんが、遺言によって財産を相続することは可能です 。また、内縁関係の夫婦の間に生まれた子は、法律婚の場合とは異なり「非嫡出子」となります 。さらに、内縁相手が死亡した場合でも、相続人がいない場合には、分与請求によって財産の一部を取得できる可能性があります 。  

内縁を選択することによって、法律婚と比べて、相続、子の権利、社会的な保障などにおいて不利な立場に置かれる可能性があることを理解しておく必要があります。

内縁に関する判例

内縁に関する判例は数多く存在します。ここでは、いくつかの重要な判例を紹介します。

  • 最高裁昭和44年4月3日判決 : 婚姻届が作成され、事実上の夫婦共同生活関係が存続していれば、届出書受理前に意識を失ったとしても、婚姻は有効に成立するとされました。  
  • 最判昭33.4.11 : 内縁の不当解消に対する損害賠償請求について、当初は「婚姻予約」の不履行という債務不履行責任として構成されていましたが、最高裁は「内縁配偶者の地位の侵害」という不法行為責任として構成することも認めました。  
  • 仙台高裁秋田支判昭和38年1月28日判決 : 秘密裡の関係から始まり同棲もしたが、住所・生計を異別にしていた男女について、夫婦共同生活の実質が「完全ではない」として内縁関係の成立を否定しました。  
  • 東京地判昭和41年12月20日判決 : 挙式、同棲し、親族・知人にも夫婦として紹介していた男女について、婚姻の意思があったと認め、内縁関係の成立を認めました。  

これらの判例から、内縁関係は一定の法的保護を受けるものの、法律婚とは異なる点があること、そして内縁の成立要件は厳格に解釈される傾向があることが分かります。

内縁で困った場合の相談先

上記の判例からもわかるように、内縁関係の法的問題は複雑になる場合があり、専門家のサポートが必要となるケースも少なくありません。内縁関係に関するトラブルや法律問題で困った場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

  • 弁護士事務所: 内縁関係の解消、慰謝料請求、財産分与、子の問題など、様々な問題に対応しています 。特に、家族法に特化した弁護士事務所であれば、より専門的なアドバイスを受けることができます。  
  • 法テラス: 法律相談や弁護士費用の立替などのサービスを提供しています 。  
  • ベリーベスト法律事務所: 内縁関係の解消時の注意点、損害賠償、養育費請求などに関する相談を受け付けています 。  

内縁のメリット・デメリット

内縁には、法律婚と比べて、以下のようなメリット・デメリットがあります。

メリット

  • 法的拘束が少ない: 婚姻届を提出する必要がなく、手続きが簡単です。
  • 自由な関係: 夫婦別姓を選択することができ、親族関係の制約もありません。
  • 解消が比較的容易: 離婚のような手続きが必要なく、合意があれば解消できます。

デメリット

  • 法的保護が弱い: 相続権がない、子の法的地位が不安定など、法律婚と比べて法的保護が十分ではありません。
  • 社会的な認知度が低い: 夫婦として認められない場合があり、社会生活で不利益を被る可能性があります。
  • トラブル発生時の解決が難しい: 法的根拠が曖昧なため、トラブル発生時の解決が複雑になることがあります。

まとめ

この記事では、民法における内縁(事実婚)について解説しました。内縁は婚姻とは異なり、法的保護に限界があることを理解しておく必要があります。内縁関係を検討する際には、法的効果やリスクをよく理解し、将来のトラブルを避けるために、必要に応じて専門家に相談することをお勧めします。特に、相続、子の親権、財産分与など、重要な法的問題については、事前に弁護士に相談し、適切な対策を講じておくことが大切です。

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