日本の裁判所は、憲法と裁判所法に基づき、国民の権利を守り、公正な裁判を行うために設置されています。
大きく分けて5つの種類があり、それぞれ役割と扱う事件が異なります。以下、詳しく解説します。
最高裁判所
最高裁判所は、日本の司法制度における頂点に立つ裁判所で、「憲法の番人」とも呼ばれます。
最高裁判所の役割
最高裁判所の主な役割は以下のとおりです。
- 上告審: 下級裁判所(高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所)の判決に対して不服がある場合の最終的な判断を行う裁判所です。つまり、他の裁判所の判決に誤りがないか、法令の解釈が適切かなどを審査します。
- 憲法判断: 法律や命令、規則などが憲法に違反していないかを審査する権限(違憲立法審査権)を持つ唯一の裁判所です。これは、国民の権利と自由を保障する上で非常に重要な役割です。
- その他: 人事官の弾劾裁判(罷免の裁判)を第一審かつ終審として行います。
最高裁判所の構成
最高裁判所は、長官と14人の裁判官、計15人の裁判官で構成されています。
最高裁判所長官は内閣の指名に基づいて天皇が任命します。
最高裁判所判は内閣が任命し、天皇が認証します。
裁判は、大法廷と小法廷で行われます。
- 大法廷: 15人の裁判官全員で構成され、憲法判断など特に重要な事件を扱います。
- 小法廷: 5人の裁判官で構成される3つの小法廷があり、通常の上告事件を分担して審理します。
最高裁判所の特徴
- 唯一性: 日本には最高裁判所は一つしかありません。東京都千代田区にあります。
- 最終審: 最高裁判所の判決は最終的なもので、これ以上不服を申し立てることはできません。
- 違憲立法審査権: 法律などが憲法に違反するかどうかを最終的に判断する権限を持ちます。
- 国民審査: 最高裁判所の裁判官は、任命後初めての衆議院議員総選挙の際に国民の審査を受け、その後10年ごとに国民審査を受けます。これは、裁判官の適格性を国民が直接判断する制度です。
最高裁判所の歴史
現在の最高裁判所は、日本国憲法の施行(1947年5月3日)とともに設置されました。それ以前は大審院という裁判所が最高裁判所の役割を担っていました。
最高裁判所に関する豆知識
- 最高裁判所の建物は、かつて大審院として使用されていた建物を引き継いでいます。
- 最高裁判所の裁判官は、法服と呼ばれる特別な服装を着用して裁判に臨みます。
- 最高裁判所の判決は、判例として下級裁判所の裁判に影響を与えます。
高等裁判所
高等裁判所は、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の判決に対する控訴を審理する裁判所です。
簡単に言うと、「第一審の判決に納得がいかない!」という場合に、もう一度裁判をやり直してもらうために申し立てる場所です。
高等裁判所の役割
高等裁判所の主な役割は以下のとおりです。
- 控訴審: 下級裁判所(地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所)の判決に対する控訴を審理します。控訴とは、第一審の判決に不服がある場合に、上級の裁判所に再審理を求める手続きです。高等裁判所では、第一審の裁判のどこに誤りがあったのか、事実認定や法律の解釈に問題はなかったのかなどを審査します。
- 抗告審: 地方裁判所や家庭裁判所の決定・命令に対する抗告を審理します。
- その他: ごく一部ですが、特定の事件については第一審から高等裁判所で審理されるものもあります(選挙に関する訴訟、知的財産に関する訴訟の一部、公正取引委員会の審決に対する訴訟など)
高等裁判所の構成
高等裁判所は、長官と判事によって構成されています。
高等裁判所長官は内閣が任命し、天皇が認証します。
高等裁判所判事は最高裁判所の指名した者の名簿に基づいて内閣が任命し、天皇が認証します。
裁判は、原則として3人の裁判官からなる合議体で行われます。
ただし、内乱罪や公正取引委員会の審決の訴訟など、特に重要な事件については5人の裁判官からなる合議体で審理されます。
高等裁判所の特徴
- 全国8か所: 日本には8つの高等裁判所(本庁)があります。東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松です。
- 支部: 本庁の他に、6つの支部に高等裁判所が置かれています。
- 管轄区域: それぞれの高等裁判所は、複数の都道府県を管轄しています。例えば、東京高等裁判所は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県など、1都10県を管轄しています。
- 知的財産高等裁判所: 東京高等裁判所には、知的財産に関する事件を専門に扱う「知的財産高等裁判所」が設置されています。これは、特許権や著作権などの知的財産権に関する訴訟が高度化・複雑化していることに対応するためです。
高等裁判所の手続き
控訴をする場合は、第一審の判決があった日から一定期間内(通常は2週間以内)に、控訴状を第一審の裁判所に提出する必要があります。
その後、高等裁判所で審理が行われます。
高等裁判所では、第一審の記録を基に審理が行われますが、必要に応じて新たな証拠調べや証人尋問が行われることもあります。
高等裁判所の判決
高等裁判所の判決には、以下のようなものがあります。
- 原判決を支持する場合→控訴を棄却する判決が出されます。
- 原判決を覆す場合→原判決を変更する判決が出されます。
- 原判決を取り消し、事件を第一審の裁判所に差し戻す場合→第一審の審理に重大な誤りがあった場合などに、事件を再び第一審で審理させるために差し戻す判決が出されます。
高等裁判所の判決に不服がある場合は、最高裁判所に上告することができます。
ただし、上告が認められるのは、憲法解釈の誤りがある場合や、判例違反がある場合など、限定的な場合に限られます。
→余談ですが、ほとんどの訴訟は最高裁まで行かずに終了します。日本の裁判制度は三審制を基本としていますが、これはあくまで「原則」であり、全ての事件が三審全てを経るわけではありません。
高等裁判所と他の裁判所との関係
- 地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所: 下級裁判所として、高等裁判所の管轄下にあります。これらの裁判所の判決に対する控訴は、高等裁判所で審理されます。
- 最高裁判所: 最高裁判所は、高等裁判所の上級に位置する裁判所です。高等裁判所の判決に対する上告は、最高裁判所で審理されます。
地方裁判所
- 役割: 一般的な民事事件や刑事事件の第一審を扱う裁判所です。
- 特徴: 裁判員裁判の対象となる事件も扱います。
- 構成: 本庁と支部があります。
- 管轄: 各都道府県に原則として1つずつ設置されています。
- 数: 本庁50庁、支部203庁
家庭裁判所
- 役割: 夫婦関係(離婚、親権など)、親子関係、相続、成年後見など、家庭に関する事件や少年事件を専門に扱う裁判所です。
- 特徴: 調停や審判といった、裁判以外の方法で紛争解決を図ることも重視しています。
- 構成: 本庁、支部、出張所があります。
- 管轄: 地方裁判所とほぼ同じ区域を管轄しています。
- 数: 本庁50庁、支部203庁、出張所77か所
簡易裁判所
簡易裁判所は、国民にとって最も身近な裁判所の一つです。
少額の民事事件や比較的軽微な刑事事件を扱い、迅速かつ簡易な手続きで紛争解決を目指すことができます。
簡易裁判所の役割
簡易裁判所の主な役割は以下のとおりです。
- 民事事件: 訴訟の目的の価額(訴額)が140万円以下の民事事件を第一審として扱います。具体的には、金銭の貸し借り、売買代金の請求、敷金返還請求、交通事故による損害賠償請求(ただし、損害額が140万円以下の場合)などが該当します。また、訴額が140万円を超える場合でも、当事者の合意があれば簡易裁判所で審理することができます。
- 民事調停: 当事者間の話し合いによる紛争解決を支援する手続き(民事調停)を行います。調停では、裁判官と調停委員が間に入り、双方の意見を調整しながら合意を目指します。
- 少額訴訟: 60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる特別な民事訴訟手続きです。原則として1回の審理で判決が出されるため、迅速な解決が期待できます。
- 刑事事件: 比較的軽微な刑事事件を扱います。具体的には、罰金刑や拘留刑に相当する事件などが該当します。
簡易裁判所の特徴
- 簡易な手続き: 地方裁判所と比べて手続きが簡略化されており、迅速な紛争解決が可能です。
- 身近な存在: 全国各地に多数設置されており、国民にとって利用しやすい裁判所です。
- 司法委員: 裁判官の他に、地域社会の実情に詳しい司法委員が調停などに参加し、当事者間の話し合いをサポートします。
- 本人訴訟が多い: 弁護士に依頼せずに、当事者本人が手続きを行う本人訴訟が多いのも特徴です。
- 条件を満たす場合、司法書士が訴訟代理人になることができる
2003年の司法書士法改正により、法務大臣の認定を受けた司法書士は、簡易裁判所における訴訟代理業務を行うことができるようになりました。ただし、司法書士が訴訟代理人になれるのは、あくまで「簡易裁判所」における「訴額140万円以下の民事事件」に限られます。
それ以外の裁判所では、訴訟代理人になることができるのは弁護士だけです。また、刑事事件についても担当できるのは弁護士だけです。
簡易裁判所の管轄
簡易裁判所は、各都道府県の主要都市だけでなく、比較的小さな市町村にも設置されています。そのため、住んでいる地域の近くの簡易裁判所を利用することができます。
簡易裁判所の手続きの流れ(民事訴訟の場合)
- 訴状の提出: 裁判所に訴状を提出します。
- 期日の指定: 裁判所が期日を指定し、当事者に通知します。
- 裁判: 法廷で裁判官が双方の主張を聞き、証拠を調べます。
- 判決: 裁判官が判決を言い渡します。
- 控訴: 判決に不服がある場合は、地方裁判所に控訴することができます。
簡易裁判所では訴えを口頭で提起することも可能
民事訴訟法第271条には、「簡易裁判所においては、口頭で訴えを提起することができる」と規定されています。
これは、簡易裁判所が少額の事件や比較的軽微な事件を迅速に処理することを目的としているため、手続きを簡略化する措置の一つです。
緊急を要する場合ですぐに書面を作成する時間がない場合や、高齢者や障がい者が提起する場合など、書面作成が困難な場合には例外的に訴えを口頭で提起することができることを覚えておきましょう。
簡易裁判所と他の裁判所との関係
- 地方裁判所: 簡易裁判所の判決に対する控訴は、地方裁判所で行われます。
- 高等裁判所、最高裁判所: 簡易裁判所の判決から直接高等裁判所や最高裁判所に上告することは、原則としてできません。
簡易裁判所を利用するメリット
- 手続きが簡単で費用も比較的安い。
- 迅速な解決が期待できる。
- 身近な場所で利用できる。
まとめ
簡易裁判所は、日常生活における比較的軽微な紛争を迅速かつ簡易に解決するための裁判所です。
手続きが簡略化されているため、弁護士に依頼せずに本人訴訟を行うことも比較的容易です。
各裁判所の比較表
裁判所 | 役割 | 扱う主な事件 | 特徴 |
---|---|---|---|
最高裁判所 | 上告審、憲法判断 | 高等裁判所の判決に対する上告、憲法訴訟 | 最終的な判断 |
高等裁判所 | 控訴審 | 地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の判決に対する控訴 | 広域管轄 |
地方裁判所 | 第一審 | 一般的な民事事件、刑事事件、裁判員裁判対象事件 | 基本となる裁判所 |
家庭裁判所 | 第一審 | 夫婦関係、親子関係、相続、少年事件 | 家庭に関する事件を専門 |
簡易裁判所 | 第一審 | 少額の金銭に関する民事事件、軽微な刑事事件 | 手続きが簡単 |