行政法を学びたての状態だと、公定力、不可争力、不可変更力とは何なのか、理解が追いつかなくなります。
今回は行政法の諸効力について、法律初学者の方向けに詳しく、わかりやすく解説します。
司法書士試験、行政書士試験、公務員試験対策に役立てば嬉しいです。
行政行為の5つの効力
行政行為には、以下の5つの特殊効力が認められます。
- 拘束力
- 公定力
- 不可争力
- 自力執行力
- 不可変更力
それぞれ、順番に解説します。
拘束力
拘束力とは、行政行為がその内容に応じて相手方と行政庁を拘束する効力です。
...と言われても、イメージがつかないと思います。
例として、一般旅券(パスポート)発給拒否事件(最判昭和60年1月22日)を使って解説します。
この事件では、
「パスポートの発給申請に対する拒否処分通知書に記載された拒否理由が、『旅券法13条1項5号に該当する』の記載だけであることは、事実関係が具体的に示されておらず、理由の記載に不備があるので、拒否処分は違法」
とされました。
つまり、裁判所が「外務大臣(外務省)のした拒否処分は違法」と判断しました。
そうなると、外務省は再度「パスポート発給申請に対するなんらかの処分」をしなければなりません。
このように従わせる力、これが拘束力です。
判決には拘束力があるため、同じ処分はできなくなります。
行政行為が成立すると、それは行政機関そのものに対する拘束力を有する。そして、相手方に対し、法律上あるいは事実上の効果を及ぼし、拘束力をもつ。ここから、行政行為の無効とは、行政行為の効力のうち、拘束力が欠けた状態のことである、と言い換えることも可能で
公定力
公定力とは「行政行為が違法であっても、無効の場合を除いて、正式な機関がこれを適法に取り消さない限り、一応有効なものとして通用させる力」のことです。
先ほど、拘束力の説明に「一般旅券(パスポート)発給拒否事件」を挙げました。
この事件では、最終的に「外務省の処分は違法」と判決が出たわけですが、判決が出るまでは、外務省のパスポート発給拒否処分は「有効なもの」として扱われていたわけです。
これが公定力です。
違法な処分であっても、さしあたって有効なものとして通用させる力です。
ただし、行政行為が無効の場合は別です。
ここでいう無効とは、「処分の瑕疵(違法)が重大かつ明白な場合」(最判昭30年12月26日)を指します。
たとえば、あなたがクルマを持っていたとして、自動車税(自動車税種別割)の納付時期になり、納付書が届いたとします。
自動車税は本来2万円程度のはずなのに、納付書には20万円と記載されていたら、それは「瑕疵(違法)が重大かつ明白」ですから、無効になり、公定力は認められません。
「行政処分が違法であることを理由にして国家賠償の請求をすることについては、あらかじめ行政処分につき取り消しまたは無効確認の判決を得ておかなければならないものではない(最判昭36年4月21日)」とした判例があります。
不可争力
不可争力とは、行政行為の相手方から、行政行為の効力を争えなくさせる効力のことをいいます。
たとえば、行政不服審査法18条では「処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月を経過したときは審査請求をすることができない」と規定がありますが
これは、3ヶ月を経過したら、不可争力により国民側からは処分の効力を争えなくなることを意味します。
自力執行力
自力執行力とは、行政行為によって命ぜられた義務を国民が履行しない場合に、行政庁が、裁判判決を得ることなく強制執行を行い、義務の内容を実現できる効力のことです。
単に「執行力」と呼ばれることもあります。
民事訴訟法の世界では、こういった行為は「自力救済の禁止の原則」によって禁止されていますが、行政法の世界では認められています。
ただし、行政の権力を発動して行うものなので、自力執行力は、行政行為の根拠となる法律規定とは別の法律規定が存在する場合に、初めて認められます。
たとえば、行政代執行法がその例です。
不可変更力
不可変更力とは、紛争解決のための裁断作用として行われた行政行為を、行政庁自身が取消したり変更できない効力のことです。
不可変更力は、紛争の蒸し返しを防ぐために必要であると考えられています。