留置権とは
留置権とは、物の占有者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その物の占有者がその債権の弁済を債務者から受けるまでその物を留置することができる法定担保物権です。
わかりやすく表現するなら、「物を返してほしければ、やるべきことをやれ」という担保物権です。
1 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
民法295条
留置権の制度趣旨は、他人の物を留置することにより、その物に関して生じた債務の弁済を間接的に促すことで当事者間の公平を図ることにあります。
留置権の成立要件
- 他人の物を占有していること
- 債権がその物に関して生じた債権であること
- 債権が弁済期にあること
- 占有が不法行為によって始まったものではないこと
①他人の物を占有していることについて
民法295条1項は「他人の物」と規定しており、「債権者の物」とは規定していません。
通説では、留置権の対象となる留置物は債務者の所有物である必要はないとされています。
ですので、例えば、AがBにカメラを貸した後、Bがそのカメラに不具合が発生したことを理由に、修理屋Cに修理を依頼し、Cが修理をしたものの、BがCに対して修理料金の支払いをしなかった場合、Cは(カメラの所有者ではない)Bに対して留置権を主張することが許されるとしています。
②債権がその物に関して生じた債権であること
留置する物と留置権者が有する債権との間には、物を留置することにより債権の弁済を促すことにつながる関連性のあることが必要となります。
この関連性を牽連性(けんれいせい)といいます。
牽連性の例として、
- 自動車工場が自動車を整備したとき、整備代金の支払いを受けるまで自動車を留置すること
- パソコン修理を有料で頼まれた者が、依頼者から代金の支払いを受けないときパソコンを留置する
などがあります。
③債権が弁済期にあること
留置権は、物の引き渡し請求に対して物を留置することにより間接的に債務の支払いを強制する権利です。
弁済期前に留置権の成立を認めると、間接的に弁済期前の弁済を相手方に求めることになり妥当ではありません。
そこで、民法では、被担保債権が弁済期にあることを留置権の成立要件としています。
④占有が不法行為によって始まった場合でないこと
不法行為とは、故意過失に基づき他人の権利を侵害する行為です。
たとえば、Aがカメラを盗み、そのカメラの占有を開始した後、カメラを修理するために修理費を支出した場合に、所有者Bからの物の返還請求に対してカメラを留置できてしまうと不公平であり、留置権の制度趣旨と合致しません。
そこで、民法では、占有が不法行為によって始まった場合でないことを留置権の成立要件としています。
留置権の効力
留置権者は被担保債権の弁済を受けるまで、目的物を留置することができ、これによって債務者に間接的に弁済を促すことができます。
留置権者は、善良な管理者の注意をもって目的物を占有することが必要です。(善管注意義務・298条1項)
留置物を使用もしくは賃貸し、または担保に供するには、債務者の承諾が必要となります。(298条2項)
ただし、留置権者は、留置物の保存に必要な使用をすることができます。(298条2項ただし)
ただし、その使用による利得は不当利得となるため、不当利得として返還しなければなりません。
抵当権者、質権者、先取特権者は、債務者から債務の弁済を受けることができないときに、民事執行法に基づき目的物を換価し、その代金から他の債権者に優先して弁済を受けることが認められています(優先弁済的効力)が、
これに対して、留置権には、優先的弁済効力は認められていません。
留置権は間接的に債務の支払いを促すことを目的とする担保物権で、他の債権者に優先して弁済を受けることを目的とする担保物権ではないためです。
留置権者は、留置権を何人に対しても主張することができます。
留置権を行使しても、被担保債権の消滅時効は進行します。(300条)
留置権の消滅
留置権が消滅する原因は、以下の場合です。
- 留置権者の占有の喪失
- 留置権の義務違反による消滅請求
- 相当の担保の供与による消滅請求
留置権者の占有の喪失
留置権者が物の占有を喪失した場合、留置権は消滅します。(302条)
そもそも、留置権は物の占有者が物を留置することにより初めて成立する権利で、物の占有を喪失した場合には留置する前提を欠くからです。
ですが、例外として、留置権者が占有を侵奪した者に対して占有回収の訴えを提起して占有を回復した場合、占有権は消滅しないことにになり、留置権は消滅しません。(203条ただし)
なぜかというと、占有回収の訴えによって占有は回復し継続していたものと扱われるからです。(203条ただし)