はじめに
保証契約の特徴
保証契約は、主たる債務者(Y)が債務を履行しない場合に、保証人(Z)が主たる債務者に代わって債権者(X)にその債務を支払う義務を負うことを約束する契約です。保証契約は、債権回収の確実性を高めるための「人的担保」の一種です。具体的には、債権者は、主債務者の支払いが遅延したり、倒産したりした場合でも、保証人に対して履行を請求することで債権を回収できます。
保証契約は保証人の一般財産を引当てにする性質を持つため、保証人が破産した場合には、債権者は一般債権者として債権額に応じた弁済を受けるに留まります。この点は、特定の財産を担保とする抵当権や質権といった物的担保と比較して、回収の確実性において不確実な側面があります。
保証契約の定義と法的性質
保証とは、主たる債務者(Y)が契約どおりに債務を支払わない場合に、その債務を主たる債務者にかわって支払う義務を負うことを指します。この保証契約には、通常、以下の三者が関与します。
債権者(X)→主たる債務者から債務の履行を受ける権利を持つ者です。
主たる債務者(Y)→本来の債務(主たる債務)を負っている者です。
保証人(Z)→主たる債務者が債務を履行しない場合に、その履行をする責任を負う者です。保証人は、主たる債務とは別個の保証契約によって、保証人独自の債務である「保証債務」を負担します。
保証債務の法的性質
保証債務には以下の性質があります。
付従性:保証債務は、主たる債務の存在を前提とし、主たる債務に成立、変更、消滅の面で従属するという性質です。
成立における付従性:主たる債務が有効に成立しなければ保証債務も成立せず、主たる債務が無効または取り消された場合、保証債務もその効力を失います。ただし、現実に発生していない将来の債務のために保証契約を締結することも可能です。
内容面の付従性:保証債務の範囲や態様は、主たる債務より重いものであってはなりません。もし重い場合は、主たる債務の限度まで責任が減縮されます。
消滅における付従性:主たる債務が弁済などによって消滅すれば、保証債務も消滅します。例えば、主債務者が消滅時効の完成後に時効の利益を放棄した場合でも、保証人は消滅時効を援用して保証債務を免れることができます。
随伴性:主たる債務者に対する債権が第三者に移転すると、保証人に対する債権もそれに伴って移転するという性質です。
補充性:保証債務は、原則として主たる債務が履行されない場合に初めて履行すべき、第二次的な債務であるという性質です。この性質により、保証人には後述する催告の抗弁権と検索の抗弁権が認められています。
独立性:保証債務は、債権者と保証人との間で締結される契約によって成立するものであり、主たる債務とは別個の独立した債務とされます。主たる債務者と保証人の事情が、保証債務の内容に直接影響を及ぼすことはありません。
同一性:保証債務は、主たる債務と同一の内容を有します。
保証契約の成立要件
保証契約は、債権者、主たる債務者、保証人の合意に加え、以下の要件を満たすことで成立します。
書面による契約
保証契約は書面でなければその効力を生じません。保証人となる者の意思確認を厳格にするためです。(民法第446条第2項)その内容を記録した電磁的記録でもOK
保証人に保証できる能力があること
原則として保証人になるための特別な要件はありませんが、主債務者自身が保証人を立てる義務を負うケースでは、保証人が「一定の判断能力を有すること(認知症などによって判断能力が低下していない)」と「債務の返済ができる程度の資力を有していること」が必要とされます(民法450条1項)。
保証契約の主要な種類と特徴
普通保証と連帯保証
保証契約は、その責任の範囲や性質によって、大きく「普通保証」と「連帯保証」に分けられます。
普通保証
普通保証の保証人は、債権者から債務の履行を請求された場合、まず主たる債務者に請求するよう主張できる「催告の抗弁権」(民法452条)を有します。さらに、債権者が主たる債務者に催告した後でも、主たる債務者に弁済する資力があり、かつ、その執行が容易であることを証明すれば、まず主たる債務者の財産から強制執行するよう主張できる「検索の抗弁権」(民法453条)も有します。また、保証人が複数いる場合、各保証人は保証人の人数で割った金額のみを返済すればよい「分別の利益」が認められます。
連帯保証
連帯保証は、保証人が主たる債務者と「連帯して」債務を負担する契約であり、主たる債務者とほぼ同等の責任を負う点が特徴です。このため、普通保証とは異なり、連帯保証人には催告の抗弁権、検索の抗弁権、分別の利益が認められません(民法454条)。債権者は、主たる債務者よりも先に連帯保証人に直接請求することが可能であり、「保証」といった場合、実務ではほとんどが連帯保証契約を指すのが現状です。
以下の表は、普通保証と連帯保証の主な違いをまとめたものです。
項目 | 普通保証 | 連帯保証 |
催告の抗弁権 | あり:債権者にまず主債務者への請求を主張できる | なし:債権者から直接請求された場合、支払いに応じなければならない |
検索の抗弁権 | あり:主債務者に資力がある場合、その財産からの先行取立てを主張できる | なし:主債務者に財産があっても、先行取立てを主張できない |
分別の利益 | あり:保証人が複数いる場合、人数で割った金額のみを返済すればよい | なし:連帯保証人が複数いても、各連帯保証人は債務全額の返済義務を負う |
責任の重さ | 比較的軽い | 重い:主債務者とほぼ同等の責任を |
根保証契約
特定債務保証と根保証の違い
通常の保証契約が「特定の債務」のみを対象とするのに対し、根保証契約は「将来発生する不特定の債務」までを保証の対象とします。例えば、事業資金の継続的な借り入れなど、契約時点では債務の総額が確定していない場合に利用されることがあります。
個人の根保証契約における極度額設定の義務化
根保証契約は、保証人の責任が拡大しやすい特性を持つため、2004年の民法改正で金銭の貸し渡し等における個人の根保証契約には極度額(保証人が支払責任を負う上限額)の定めが必須とされました。さらに、2020年4月施行の民法改正により、賃貸借契約の賃料や修繕費、損害賠償債務など、すべての個人の根保証契約において極度額の定めが義務化されました。極度額の定めがない個人の根保証契約は無効となります。これは、保証人が負うリスクを明確化し、予期せぬ多額の債務から保護するための改正です。
人的担保としての保証と物的担保(物上保証)
人的担保としての保証:保証人の一般財産を引当てにする担保形式です。主たる債務者が債務不履行に陥った場合、保証人が代わりに債務を履行する義務を負います。
物的担保(物上保証):債務者または第三者(物上保証人)が特定の財産(不動産など)を担保として提供し、その財産から優先的に弁済を受けることを目的とする担保形式です(例:抵当権、質権など)。
責任範囲の違いと実務上の選択:物上保証人は提供した担保の評価範囲内でのみ責任を負うのに対し、連帯保証人は債務が完済されるまで責任を負うため、連帯保証人の方が責任が重く、リスクも大きいと言えます。この違いから、保証人となる際は保証内容の範囲やリスクを十分に理解し、安易に連帯保証人となることを引き受けないことが重要です。
連帯債務との違い
保証と混同されやすい概念に「連帯債務」があります。
連帯債務:複数の債務者が同一の債務を連帯して負う形式であり、債務者全員が本来の債務者です。債権者は連帯債務者の誰に対しても全額の履行を請求できます。例えば、夫婦で住宅ローンを組む場合、どちらも債務者として返済義務を負い、債権者はどちらにも支払いを求めることができます。
連帯保証:主たる債務者が債務を履行できない場合に、連帯保証人が肩代わりする形式であり、連帯保証人は主たる債務者とは異なり、本来の債務者ではありません。主たる債務者が支払いを続けられる限り、連帯保証人は通常何もする必要がありません。
実務上の違い:連帯債務は、全員が共同で債務を負う「チームプレー」のようなものです。一方、連帯保証は主たる債務者の「代替」として機能します。連帯債務には、住宅ローン控除が2人分適用できるなどのメリットがある場合もあります。
保証人の権利と責任
債権者に対する抗弁権
保証人は、債権者から債務の履行を請求された場合に、その請求を拒むことができる権利(抗弁権)を有します。これは保証債務の補充性に基づくものです。
催告の抗弁権(民法452条)
債権者が保証人に債務の履行を請求してきた場合、保証人はまず主たる債務者に催告(請求)するよう主張できます。
検索の抗弁権(民法453条)
債権者が主たる債務者に催告した後でも、保証人は主たる債務者に弁済する資力があり、かつ、その執行が容易であることを証明すれば、まず主たる債務者の財産から強制執行するよう主張できます。
連帯保証人の場合:連帯保証人には、これらの催告の抗弁権および検索の抗弁権は認められません(民法454条)。これにより、債権者は主たる債務者と同等に連帯保証人に直接請求できるため、連帯保証人の責任は普通保証人よりも重くなります。
連帯保証に抗弁権がないということは、連帯保証人が主債務者と「同等」の責任を負うということです。
主債務者に対する求償権
求償権の発生:保証人が主たる債務者に代わって債務を弁済したり、その他の方法で債務を消滅させたりした場合、保証人は主たる債務者に対して、肩代わりした分の返還を請求する権利(求償権)を取得します(民法459条以下)。
求償権の行使条件
弁済等による求償:保証人が債務を弁済した場合に発生します。
事前の求償権:主たる債務者の委託を受けて保証をした場合、保証人は、以下のいずれかに該当するときは、主たる債務者に対して、あらかじめ求償権を行使することができます(民法460条)。
主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
債務が弁済期にあるとき(ただし、保証契約後に債権者が主たる債務者に許与した期限は保証人に対抗できません)。
保証人が過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき。
保証債務の消滅事由
保証債務の一般的な消滅事由
保証債務は、主たる債務と同様に、以下の事由によって消滅します。
- 弁済→保証人が債務を弁済した場合。
- 相殺→保証人が債権者に対して債権を持ち、これを保証債務と相殺した場合。
- 混同→保証人が債権者の地位を相続するなどして、債権者と保証人の地位が同一人物に帰した場合。
- 更改→債権者と保証人が、保証債務を消滅させ、新たな債務を発生させる契約をした場合。
- 免除→債権者が保証人の債務を免除した場合。
- 時効→保証債務が消滅時効の期間を経過し、保証人が時効を援用した場合。
主債務と保証債務の消滅時効の関係性
保証債務と主たる債務の消滅時効は、それぞれ独立して進行する側面と、相互に影響し合う側面があります。
時効の起算点:保証債務の時効の起算点は、原則として主たる債務者の最終弁済日です。保証人がその後弁済した場合は、保証人の最終弁済日が起算点となります。
主債務者による承認の影響
時効完成前:主たる債務者が時効完成前に主たる債務を承認すると、主たる債務の時効が中断(更新)され、その効果は保証人にも及びます(民法457条1項)。この場合、保証人も時効を援用できなくなります。
時効完成後:主たる債務者が時効完成後に主たる債務を承認した場合、主たる債務者は時効援用権を喪失しますが、その効果は相対的であり、保証人には影響しません。そのため、保証人は原則として保証債務の時効を援用できます。
保証人による承認の影響:
- 時効完成前:保証人が時効完成前に保証債務を承認すると、保証債務の時効が中断(更新)され、時効援用は認められません。
- 時効完成後:保証人が時効完成後に保証債務を承認すると、保証人は保証債務の時効援用権を喪失し、時効援用は認められません。
- 保証人による主債務の時効援用:保証人は、自身の保証債務の時効だけでなく、主たる債務の消滅時効も援用することができます。ただし、主たる債務者が時効完成後に弁済したことを知りながら保証人が弁済した場合など、例外的に保証人も時効援用が認められないケースがあります。
この時効に関する「相対効」と「絶対効」の区別は、保証人の法的立場を非常に複雑にしています。主たる債務者に有利な時効中断は保証人にも及ぶ一方で、主たる債務者が時効援用権を失っても保証人は援用できるという非対称性があります。
民法改正(2020年4月施行)による保証制度の変更点
改正の背景にある保証人保護の強化
2020年4月1日に施行された民法改正は、保証人、特に個人の保証人が過度な責任を負うことを防ぎ、その保護を強化することを主眼としています。この改正の背景には、中小企業の融資において経営者個人が連帯保証する慣例や、取引先の倒産などにより保証人が生活基盤を失う事例が後を絶たなかったという社会的な課題がありました。
個人根保証契約における極度額設定の義務化
すべての個人の根保証契約(将来発生する不特定の債務を保証する契約)において、保証人が支払責任を負う金額の上限である「極度額」の定めが義務化されました(民法465条の2第2項)。極度額の定めがない個人の根保証契約は無効となります。この規定は、賃貸借契約の賃料や修繕費、損害賠償債務など、これまで極度額の定めが不要だった範囲にも適用されます。
主債務者および債権者から保証人への情報提供義務の強化
主債務者から保証人への情報提供義務(民法465条の10)
事業のために個人に保証を委託する場合、主たる債務者は、保証契約締結時に以下の情報を保証人に提供する義務を負います。
財産及び収支の状況
主たる債務以外に負担している債務の有無、その額及び履行状況
主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
これらの情報提供義務に違反し、保証人が誤って保証契約を締結した場合、債権者に過失があれば保証人は保証契約を取り消すことができるリスクがあります。
債権者から保証人への情報提供義務(民法458条の2、458条の3)
主債務の履行状況に関する情報提供義務:保証人(委託を受けた保証人に限る)からの請求があった場合、債権者は主たる債務の元本、利息、違約金等の不履行の有無や残額に関する情報を提供しなければなりません。
期限の利益喪失時の通知義務→主たる債務者が期限の利益を喪失した場合(例:滞納など)、債権者はその事実を知った時から2か月以内に保証人に対しその旨を通知しなければなりません。
まとめ
保証契約は、債権者にとっては債権回収の確実性を高める有効な手段である一方で、保証人にとっては大きなリスクを伴う契約です。特に、連帯保証契約や根保証契約においては、その責任が重く、予期せぬ事態に直面する可能性があることを理解する必要があります。
出典(2025年6月16日アクセス)
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