今回は、民法の遺言について解説します。
※現在最新の民法(令和6年5月24日施行)に基づいて解説しています。
日常では、「ゆいごん」と発音されますが、法律の世界では、「いごん」と呼ばれることが多いことを覚えておきましょう。
遺言とは
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まず、遺言とはなんなのか解説します。
遺言は、遺言者の財産と身分の最終意思に法的効果を与える、単独行為です。
遺言をしておくことで、遺言者、みずからが自分の残した財産の使い道を決めることができるので、相続をめぐる争いを防ぐことができます。
また、遺族に対し最後のメッセージを残すことができます。
遺言については民法に規定がありますが、ルールが意外に細かく、自由に作れるわけではありません。
遺言者適格
遺言をするには、意思能力が備わっている必要があります。
遺言者は満15歳に達していなければなりません。(民法第961条)
遺言については制限行為能力者制度が適用されず、満15歳に達していれば、被補助人や被保佐人でも、単独で遺言が可能です。
ただし、成年被後見人は、遺言をするときに、事理弁識能力を一時的に回復していて、医師2人以上の立ち合いが必要です。(民法第973条)
遺言は単独で行わなければいけません。2人以上の者が同一の証書でした遺言は無効になります。(民法第975条)
これを共同遺言の禁止と呼びます。
したがって、夫婦やカップルが共同で作成した遺言は無効になります。
共同遺言の禁止は判例でも認められています。
遺言の証人と立会人
遺言をするには証人が必要になる場合がありますが、未成年者や推定相続人などの利害関係人は証人および立会人となることができません。(民法第974条)
ここでいう利害関係人とは、推定相続人、遺言によって遺贈を受ける人、これらの配偶者と直系血族人などを指します。
遺言の撤回
遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます。(民法第1022条)
遺言の撤回権は、放棄することができません。(民法第1026条)
なぜかというと、遺言を撤回できなくなると、遺言者の最終意思を尊重するという遺言制度の趣旨を損なうことになるからです。
遺言は様々な種類がある
実は、遺言には様々な種類があります。
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大きく、普通方式遺言と特別方式遺言に分けられます。
普通方式遺言は以下の3種あり、
- 自筆証書遺言(民法968条)
- 公正証書遺言(民法969条)
- 秘密証書遺言(民法970条)
特別方式遺言は以下のように分類されます。
- 一般危急時遺言(民法976条)
- 難船危急時遺言(民法979条)
- 伝染病隔離者遺言(民法977条)
- 在船者遺言(民法978条)
特別方式遺言が試験で出題されることはほぼないので、この記事では普通方式遺言だけ解説します。
普通方式遺言
普通方式の遺言は3種類あります。
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言です。
順番に解説していきます。
自筆証書遺言
「遺言書」と聞いて真っ先に想像される方式の遺言です。
自筆証書遺言は自分で作成し保管することで完了する方式の遺言です。
証人の立ち会いは不要で、費用がかからず容易に済むというメリットがある一方で、遺言書の紛失、破損、偽造のおそれがある方式でもあります。
自筆証書遺言は、遺言書に遺言の内容となる全文、日付、氏名を自署し、かつ押印をする必要があります。(民法第968条1項)
また、自筆証書中の加除、変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付け加えて署名し、かつ変更の場所に押印しなければいけません。(民法第968条3項)
本文は自署しないといけません。Wordで作成した遺言書は認められないので注意が必要です。
ただし、2018年の民法改正で添付する相続財産目録に限ってパソコンやワープロによる作成が可能になりました。この場合、目録のすべての用紙に署名と押印が必要です。(民法第968条2項)
自筆証書遺言の判例
自筆証書遺言の代表的な判例を4つ紹介します。
①カーボン紙を用いて複写方式で記載した方法は自署にあたるという判例があります。(最判平成5年10月19日)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=73150
②他人の添え手による補助を受けた自筆証書遺言は、補助者の意思が運筆に介入した形跡がなければ有効という判例があります。(最判昭和62年10月8日)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55195
③自筆証書遺言の要件である押印が指印でも有効だという判例があります。(最判平成元年6月23日)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62365
これはなぜかというと、指紋は終生不変のもので、遺言者が同一であることの判断が容易だからです。
④日付を吉日とした遺言書は無効だという判例があります。(最判昭和54年5月31日)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52147
この理由は簡単で、吉日という記載では日付の特定ができず、遺言者の最終意思がわからなくなってしまうからです。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する遺言方式です。(民法第969条)
法律の専門家である公証人のもとで作成するので確実性、信用性が高く、遺言書が公証役場に保管されるので、偽造や紛失のおそれがないという特徴があります。本人確認書類の準備と証人2人以上の立ち合い、証人に支払う謝礼が必要となります。
証書の原本は公証役場に保管され、遺言者には正本・謄本が交付されます。
公証役場を訪問して作成する以外に、公証人に出向いてもらうことも可能です。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま存在だけを公証役場で証明してもらう遺言方式です。(民法第970条)
自分で用意した遺言に、封をした状態で公証役場に持っていくので、遺言の中身が他人に知られることがありません。
秘密証書によって遺言をするには、遺言者は、署名押印した遺言書を封筒に入れ、それを公証人と、証人2人以上の前に提出して、自己の遺言書であることなどを申述したうえで、遺言者と証人が署名、押印する必要があります。(民法第970条1から4)
秘密証書遺言では、パソコンやワープロを使った作成が認められています。
また、秘密証書遺言としての方式に欠けていても、自筆証書遺言としての要件を備えてあれば、自筆証書遺言として有効とされます。(民法第971条)
まとめ
それでは、まとめです
- 遺言の最終目的は、遺言者の最終意思の尊重です
- 遺言には普通方式遺言と特別方式遺言があります
- 満15歳以上に達していれば、遺言ができます
- 遺言には制限行為能力者制度が適用されません
- 成年被後見人が遺言をするには条件があります。
- 遺言は共同で作成できません
- 遺言の証人になれる者には条件があります
- 遺言はいつでも撤回ができます
- 遺言を撤回する権利は放棄できません
- 自筆証書遺言に添付する相続財産目録は、パソコンやワープロで作成可能です
- 公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成します
- 公正証書遺言は、証人ふたり以上の立ち合いが必要です。
- 秘密証書遺言は、公証人ひとりおよび証人ふたり以上の立ち会いが必要です
- 秘密証書遺言は、パソコンやワープロで作成可能です。