民法解説

【民法】特別養子縁組の制定背景と条件について解説

今回は、民法の特別養子縁組について解説します。

特別養子縁組とは

特別養子縁組とは、子どもの福祉の増進を図るために、子どもと、実父母の法的な親子関係を解消し、養親になることを望む夫婦に対し、一定の要件を満たす場合に、家庭裁判所の手続きによって、実の子と同じ親子関係を成立させる制度です。

ここで言う養親とは、新たに親となる者を指します。実父母とは、生みの親を指します。

特別養子縁組については、民法第817条の2から第817条の11に規定されています。

特別養子縁組が使われる例として、予期せぬ妊娠や病気、経済的な困窮で子どもを育てられない、子どもを虐待してしまうなどの事情で、実の親によるこどもの養育が難しいときなどがあります。

名前のとおり、普通養子縁組とは目的も要件も違う制度となっています。

特別養子縁組制度導入の契機となった事件

特別養子縁組制度は、1987年の民法改正によって導入された制度です。

特別養子縁組の解説に入る前に、制度導入に関する、私の好きなエピソード「菊田医師事件(最判昭和63年6月17日)」をご紹介します。

最高裁判決URL https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62344

特別養子縁組制度の導入には、菊田昇さんという産婦人科医師の行動が大きく影響しており、同制度は、この事件が契機となってつくられたと言っても過言ではありません。

以降、菊田昇医師を菊田医師と記載します。

宮城県石巻市で産婦人科の開業医をしていて、優生保護法指定医を受けていた菊田医師は、中絶手術を行う中で、この中絶行為は人殺しではないかと葛藤を始めました。

結果、菊田医師は、胎児の命を救うために、中絶を求める女性に対して出産を促し、他方で、地元紙の広告で里親を募集し、生まれた赤ちゃんを、子宝に恵まれない夫婦に、無報酬であっせんする活動を続けました。

そして、その際に、当時は現在の特別養子縁組制度に相当する法律が日本には無かったため、やむを得ず偽の出生証明書を作成して、少なくとも100人以上の赤ちゃんを引き取り手の実子としていました。

つまり、法律に違反しながらも100人以上の命を救ったのです。

しかし、1973年に、菊田医師は中部地方の産婦人科医会に、医師法違反で告発されました。

菊田医師は所属関係学会を除名され、優生保護法指定医を撤回されました。

6ヶ月の医療停止の行政処分も受けることとなりました。

菊田医師は不服の訴えを起こしたものの、最高裁で敗訴してしまいました。

この事件を契機に菊田医師へ賛同の声が巻き起こり、実子として養子を育てたいと考える養親や、社会的養護のもとに置かれる子どもが社会的に認知され、要望に応える法的制度が必要だという機運が高まり、1987年の民法改正で特別養子縁組制度が導入されました。

これが、菊田医師事件です。

菊田医師の活動は世界で認められ、彼は、国連の国際生命尊重会議東京大会で第2回の世界生命賞を受賞しました。

第1回オスロ大会の受賞者は、なんとマザー・テレサです。菊田医師の評価は、世界から見ても非常に高かったことがわかります。

私は、この事件がとても好きです。

菊田医師の行為は医師法違反ではありますが、彼は100人以上の命を救い、50組以上の夫婦に幸せをもたらしました。

特別養子縁組制度が制定された背景には、このようなストーリーがあるのです。

特別養子縁組の成立要件

要件① 特別養子縁組は、養親となる者、夫婦共同の申し立てに基づき、家庭裁判所の審判により成立します。(民法第817条の2)

要件② 特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を6か月以上の期間監護(試験監護)し、その状況を考慮しなければいけません。(民法第817条の8)

要件③ 特別養子縁組は、実父母による養子となる者の養護が著しく困難又は不適当であること、その他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに成立します。(民法第817条の7)

要件④ 特別養子縁組は、実父母の同意が原則として必要です。ただし、実父母がその意思を表示することができない場合、又は実父母による虐待、悪意の遺棄そのほか養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は、同意は不要です。(民法第817条の6)

悪意の遺棄とは、簡単に言うと、正当な理由がないのに監護養育の義務を果たさないことです。

要件⑤ 養親は、原則として夫婦が25歳に達していることが必要です。ですが、これには例外があり、夫婦の一方が25歳に達していなくても、その者が20歳に達していれば縁組が認められます。(民法第817条の4)

要件⑥ 養子は、縁組の請求時に15歳未満でなければなりません。

しかし、15歳に達する前から養親となる者に監護されていたと認められる場合は、縁組の成立時に18歳に達していなければ縁組が可能です。また、養子が15歳を超えている場合は本人の同意が必要です。(民法第817条の5)

ここまでが、特別養子縁組の要件です。

普通養子縁組とは大きく違うことがわかると思います。

特別養子縁組の効果

効果①特別養子縁組では、実方の父母およびその血族と養子との親族関係は終了します。つまり、生みの親との親族関係は完全に終了することになります。(民法第817条の9)

効果②養子は、縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します。同時に、養親の血族との間に親族関係が発生します。

特別養子縁組の離縁

原則として、特別養子縁組の離縁は認められません。

しかし、2つの条件を両方満たしたときに、例外的に離縁が認められます。

その条件は「養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があり」、かつ「実父母、つまり生みの親が相当の監護をすることができること」です。

この2つを満たしている場合のみ、例外的に離縁が認められます。

悪意の遺棄とは、養親が正当な理由がないのに監護養育の義務を果たさないことです。

注意したいのは、両方を満たしている必要があるということです。

いずれか一方だけでは、離縁は認められません。(民法第817条の10)離縁は、家庭裁判所の審判によってなされます。

まとめ

  1. 特別養子縁組制度導入の背景には、菊田昇医師の活動があった
  2. 特別養子縁組は、養親となる者の申し立てに基づき、家庭裁判所の審判によって成立する
  3. 特別養子縁組では、養親となる者は6ヶ月以上の期間、養子を試験養育しなければならない
  4. 特別養子縁組の養親は25歳以上の夫婦で、少なくとも一方は20歳に達していなければならない
  5. 特別養子縁組では、養子は縁組の請求時に15歳未満、成立時に18歳未満でなければならない
  6. 特別養子縁組では、養子と実父母の親族関係は終了し相続権も消滅する
  7. 特別養子縁組の離縁は原則としてできないが、2つの条件を満たせば例外的にできる場合がある

普通養子縁組と特別養子縁組の比較表をつくってみたので、参考にしてください。

普通養子縁組と特別養子縁組の比較表

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