今回は、民法の普通養子縁組について解説します。
⚠️本記事は令和6年5月24日に公布された改正民法に基づいて解説しています。この改正では、共同親権について定めた第819条が変わっています。
民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について(法務省サイト)
これまでは、離婚した父母のいずれか一方を親権者として定めなければなりませんでしたが、改正により父母のいずれか一方でも双方でも親権者として定めることができるようになりました。これを選択的共同親権制といいます。この改正は公布より2年以内に施行されますが、今のところ施行日は未定なので注意してください。
普通養子縁組とは
普通養子縁組は、実親との親子関係はそのままに、新たに養親との親子関係を結ぶ養子縁組です。
実親とは、生みの親を指します。養親とは、新たに親となる者を指します。
普通養子縁組では、実親と子どもとの法的関係が残るため、子どもは実親と養親との両方に親子関係があることになります。
つまり、二重の親子関係になる縁組です。
普通養子縁組は、相続対策によく使われます。
普通養子縁組が使われる目的として、相続税の非課税枠を増やす、他の相続人の遺留分割合を減らす、養親が法定相続人をつくりだして相続人不存在の状態を回避する、などがあります。
普通養子縁組は、要式行為で、一定の方式によることが必要です。
要式行為とは、書面を作成したり、届け出を出したりといった、法令で定められた一定の方式に従って行わなければ、不成立または無効とされる法律行為です。
要式行為の例として、遺言、婚姻、縁組などがあります。
普通養子縁組の成立要件
普通養子縁組の成立要件は意外に細かいので、注意が必要です。
要件1 縁組意思と届出
普通養子縁組は、当事者の合意意思に基づき、戸籍法の定めるところにより届け出をすることで成立します。
これは、民法第739条の準用です。普通養子縁組は特別養子縁組と違って、原則として当事者の意思で自由に縁組ができます。
要件2 養親の年齢
養親は20歳に達している必要があります。(民法第792条)
要件3 養子と養親の年齢
養子は養親より年長者、または尊属であってはなりません。(民法第793条)
尊属とは、父母や祖父母、曾祖父など自分よりも前の世代の血族のことです。
要件4 後見人が被後見人を養子とする場合
後見人が被後見人を養子とするには家庭裁判所の許可が必要です。(民法第794条)
要件5 配偶者のある者が未成年者を養子とする場合
配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければなりません。
ただし、配偶者の嫡出子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、夫婦の一方が単独で縁組をすることができます。(民法第795条)
配偶者の嫡出子を養子とする場合とは、たとえば、妻が前の婚姻で生んだ嫡出子を夫が養子とするような場合です。
要件6 配偶者のある者が縁組をする場合
配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意が必要です。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、同意は不要です。(民法第796条)
要件7 15歳未満の子を養子とする場合
15歳未満の子を養子とする場合は、法定代理人による縁組の承諾が必要です。これを代諾縁組といいます。(民法第797条1項)
反対解釈すれば、15歳を超えれば、養子となるもの本人が承諾をすればよく、その承諾が必須となります。
法定代理人は、養子となる者の父母でその監護権者である者が他にあるときは、その同意も得なければなりません。また、養子となる者の父母で親権を停止されている者があるときもその同意が必要です。(民法第797条2項)
なぜなら、養子縁組がなされると養親が親権者となり、監護権者は監護権を奪われることとなるからです。そのため、監護権者が他にあるときは、その者の同意を得ることとされました。
要件8 未成年者を養子とする場合の家裁許可
未成年者を養子とする場合、原則として家庭裁判所の許可が必要です。(民法第798条)
ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、家庭裁判所の許可は不要です。自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、親権が濫用されるおそれがないと考えられるからです。直系卑属とは、子や孫、ひ孫など、自分よりあとの世代にあたる、直通する系統の親族のことです。
普通養子縁組の効果
次に、普通養子縁組の効果について解説します。
効果1 嫡出子身分の取得
養子縁組によって、養子は、縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します。(民法第809条)
効果2 養親の氏の取得
養子縁組によって、養子は養親の氏を取得します。(民法第810条)
効果3 未成年者養子の親権
養子縁組によって、未成年者の養子は養親の親権に服することになります。(民法第818条2項)
効果4 法定血族関係の発生
養子縁組によって、子と養親およびその血族との間に法定血族関係が発生します。(民法第727条)
効果5 実親の相続権
普通養子縁組をしても養子と実親との法的親子関係に変化はなく、実親を相続できます。
ここは特別養子縁組と違うところです。特別養子縁組では、実親との関係は完全に終了します。
普通養子縁組の離縁
次は、普通養子縁組の離縁について解説します。離縁とは、養子縁組を解消することです。
普通養子縁組の離縁には、協議離縁と裁判離縁の2つがあります。
離縁には、婚姻の規定の一部が準用されます。
まずは、協議離縁について解説します。
協議離縁の要件1 離縁届の提出
離縁をするには、協議ののち離縁届を市区町村役場に提出する必要があります。これは民法第739条、婚姻の届出の規定の準用です。この届出は、当事者双方と成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭でしなければなりません。
協議離縁の要件2 成年被後見人の離縁
成年被後見人が離縁をするのに成年後見人の同意は不要です。これは、民法第738条、成年被後見人の婚姻の規定の準用です。
協議離縁の要件3 離縁の協議
離縁の協議は当事者、つまり養親と養子のみですることができます。(民法第811条)
協議離縁の要件4 離縁協議できる年齢
15歳以上の養子は、単独で離縁の協議が可能です。
養子が15歳未満の場合は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議で離縁をします。(民法第811条第2項)
この場合、法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、養子の親族その他の利害関係人の請求によって、養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任します。(民法第811条第5項)
離縁の要件5、養子が15歳未満で離縁する場合、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければなりません。(民法第811条第3項)
協議離縁の要件6、協議が整わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父若しくは母又は養親の請求によって、協議に代わる審判をすることができます。(民法第811条第4項)
協議離縁の要件7、養親子の一方が死亡した後、生存当時者が離縁を望む場合、家庭裁判所の許可を得て、離縁をすることができます。(民法第811条第6項)
協議離縁の要件8、養親が夫婦である場合に未成年者と離縁をするには、夫婦が共にしなければならない。ただし、夫婦の一方がその意思を表示することができないときは、一方のみで離縁が可能です(民法第811条の2)
協議離縁の取消し1、詐欺又は強迫によって離縁をした者は、その離縁の取り消しを家庭裁判所に請求することができます。民法第747条(詐欺・強迫による婚姻の取消し)の規定の準用です。
協議離縁の取り消し2、詐欺又は強迫による離縁の取り消し権は、当事者が、詐欺を発見し、もしくは強迫を免れた後6ヶ月を経過し、又は追認をしたとき消滅します。これは、民法第747条(詐欺・強迫による婚姻の取消し)の規定の準用で、3ヶ月の部分が6ヶ月になっています。
次に、裁判離縁について解説します。
協議離縁が成立しない場合でも、次の離縁原因があれば、養子縁組の当事者の一方は、離縁の訴えを提起することができます。(民法第814条1項)
- 他の一方から悪意で遺棄されたとき
- 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
- その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき
悪意の遺棄とは、簡単に言うと、養親が、正当な理由がないのに監護養育の義務を果たさないことです。
次は、離縁の効果を解説します。
離縁の効果
離縁の効果は、大きく2つです。
養親子関係と法定親族関係の終了
養子は、離縁の日から養親の嫡出子の身分を失います。これに伴い、養子、その配偶者、直系卑属およびその配偶者と養親及びその血族との親族関係も離縁によって終了します。(民法第729条)
養子の復氏
養子は、離縁により縁組前の氏に戻ります。(民法第816条1項)
ただし、配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁をした場合は、この限りでない。縁組の日から7年を経過した後に離縁より縁組前の氏に復した者は、離縁の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離縁の際に称していた氏を称することができる(816条)。
普通養子縁組と特別養子縁組の違い
普通養子縁組と特別養子縁組の違いをまとめた表をつくってみました。
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特殊な条件で成立する特別養子縁組のほうが厳格な要件となっています。
試験では両者の違いを問われることが多いので、しっかり抑えておきたいところです。