行政作用法 代執行についてわかりやすく解説します。
※本記事は、昭和37年10月1日施行の行政代執行法を基に解説しています。
行政の実効性確保手段は
- 代執行
- 執行罰(間接強制)
- 直接強制
- 強制徴収
- 即時強制
- 行政刑罰
の6個に分けられるのですが、この中でも代執行は特に重要な部分です
代執行とは
代執行については、行政代執行法に規定があります。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000043
行政代執行法は、行政上の義務履行確保の一般法となっています。
代執行の定義は行政代執行法2条で説明がされているのですが、長いうえに単語もややわかりにいです。
簡単に表現すると、代執行は、
「義務者の義務違反によって、公益を害する事態が発生している場合で、義務者が、相当の期間内にその義務について対応しないときに、行政が自ら強制を加え、義務者に代わり、義務を実現すること」です。
これでも正直よくわからないと思います。
このあと、例を挙げて解説していきます。
代執行の要件
代執行の要件は大きく3つです。
要件1つめは、法律(条例や規則を含む)により直接命ぜられ、または法律に基づき行政庁により命ぜられた行為(代替的作為義務)について義務者がこれを履行しないことです。
代替的作為義務とは他人でもできる行為を内容とする義務のことです。
代替的作為義務の代表例として違法建築物の取り壊しがあります。
違法建築物の取り壊しは、人を問わず誰でもできる作業です。
なので、代替できる作為義務ということで代替的作為義務と呼ばれます。
一方で、義務者でなければ実行できないものを非代替的作為義務と呼びます。
非代替的作為義務の例としては、食中毒を出した飲食店の営業停止処分があります。
要件2つめは、他の手段によってその履行を確保することが困難であることです。
要するに、他の方法では達成できないということです。
要件3つめは、その不履行を放置することが、著しく公益に反すると認められることです。
要するに、放置しておくと社会にとって悪影響を及ぼすということです。
この3つが代執行の要件になります。
代執行の例
実際に代執行の要件を満たす事案を作ってみました。
Aさんの家の隣には、Bさんの家があります。
Bさんは20年前に亡くなっており、家は手つかずの状態で著しく老朽化しています。
このままBさんの家を放置すると倒壊する危険があります。
倒壊してしまうと周囲の家や道路を巻き込むことになりそうです。
近隣住民もこの状況を不安に感じており、Aさんはこの事態を解決したいと思いましたが、Bさんは亡くなっているので解決する方法がありません。
そこで、Aさんは市に相談し事情を説明しました。
最終的に、市が直接Bさんの家を取り壊すことになりました。
このような事案が代執行に該当します。
①誰が家を取り壊してもよくて、②他に解決する手段がなく、③放置すると公益を害するという3つの要件をすべて満たしています。
なお、代執行については、埼玉県が、実際に行なった事例をまとめた文書があります。
これがとても参考になるので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/124019/19_zireisyuu.pdf
代執行の流れ
代執行の流れは大きく以下の通りで
- 代執行の要件を満たしている状態の成立
- 義務者への戒告
- 義務者への通知
- 代執行の実施
- 費用の徴収
1は先ほど説明したので、2から解説します。
2 義務者への戒告
要件を満たした後に行うのは義務者への戒告です。
戒告とは督促のことで、要するに「やってください」とお願いをすることです。
代執行をなすには、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは代執行をなすべき旨を予め文書で戒告しなければならない。(行政代執行法3条)
つまり、行政庁が義務者に対して、「この日までに対応してくださいね。やらない場合は代執行をするからね」と、予め義務者に文書で戒告をするわけです。
ただし、非常時で戒告の手続きをとる余裕がない場合には戒告を省略できます。(行政代執行法3条3項)
なお、戒告には処分性があります。つまり、戒告に対して取消訴訟を提起することが可能です。
3 義務者への通知
次に行うのは通知です。
義務者が、戒告を受けて指定の期限までにその義務を履行しないときは、行政庁は、代執行令書によって代執行を行う時期、代執行に派遣する執行責任者の氏名及び代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知します。
この通知も、戒告と同じように、非常時で通知の手続きをとる余裕がない場合には省略ができます。
通知にも、処分性があると解されています。
4 代執行の実施
次に行うのが代執行の実施です。
戒告と通知をしたのに義務者が何もしない場合には代執行が実施されます。
つまり、行政が強制的に措置をおこなうということです。
その際には、執行責任者が代執行の現場に派遣されます。
執行責任者は、執行責任者であることを示すべき証票を携帯し、要求があるときは提示しなければなりません。
ここで注意したいのが、提示する必要があるのは要求があるときだけということです。
要求が無ければ提示する必要はありません。
5 費用の徴収
最後に費用の徴収がされます。
行政庁が、代執行に要した費用の額とその納期日を定め義務者に対し文書でその納付を命じます。
代執行にかかった費用は、国税滞納処分の例により徴収することができます。
つまり、強制徴収が可能です。行政機関は民事訴訟を起こす必要がありません。
まとめ
まとめです。
行政代執行法は、義務履行確保の一般法です。
代執行を行うには
①代替的作為義務が存在すること
②義務の不履行があること
③他の手段によって義務の履行を確保することが困難であること
④義務の不履行を放置することが著しく公益に反すること
の要件を満たしている必要があります
代執行の戒告と通知は、緊急時に省略することができます。
代執行の現場には責任者が派遣され、証票の提示を求められたら、応じなければいけません
代執行が終わったら、かかった費用を義務者から強制徴収することができます