民法解説

【民法】制限行為能力者について詳しく解説

今回は民法総則、制限行為能力者について解説します。

制限行為能力者について学ぶ前に 民法において重要な3つの能力について解説したいと思います

それは①権利能力、②意思能力、③行為能力です。

それぞれ解説していきます。

権利能力とは

権利能力というのは、法律上の権利義務の主体となることができる資格のことです

これは、民法第3条に規定されています。

人間は生まれながらにして権利能力を有する。

つまり、生まれた時点でみな権利能力は持っています。

ちなみに、出生前の胎児赤ちゃんは相続と遺贈と損害賠償については権利能力を持っており、生まれているのと同じ扱いになります。

意思能力とは

次は、意思能力です。

意思能力というのは、意思表示等の判断において自分の行為の結果を弁識(理解)し判断することができる能力のことです。

一般的には、5歳から6歳くらいで意思能力が備わっているとされます。

重度の認知症患者へ泥酔している人や、強度の精神病患者は意思能力がないとされそういった人たちの行為は無効になります。

無効なので、最初から効力がありません。

行為能力とは

次は行為能力です。

行為能力というのは、ひとりで有効な法律行為を行う能力のことです。

分かりにくいですが、行為能力を欠く人がひとりで行った行為は後になって取り消されることがあります。

無効ではなく「取り消されることがある」というのがポイントです。

この権利能力、意思能力、行為能力は制限行為能力者を学ぶにあたって重要になるので、ぜひ覚えておきましょう。

制限行為能力者とは

それでは、制限行為能力者について解説をしていきます

制限行為能力者というのは、先ほど解説した行為能力が法によって制限されている人のことです

自分自身で判断し、責任を負うことが難しいと法律で判断された人になります

制限行為能力者は、法定代理人や後見人といった保護機関の同意を得たり、場合によっては保護者に代理してもらうことで法律行為を行うことができるようになっています。

これは、制限行為能力者が不利益を被ったり、不当な契約を結んでしまったりすることを防ぐための制度ですが、本人だけでなく制限行為能力者と取引をする相手方も保護することを目的としています

制限行為能力者の種類

次に、制限行為能力者の種類を解説します。

民法は制限行為能力者を①未成年、②成年被後見人、③被保佐人、④被補助人の4種に分類しています。

未成年

まずは、未成年者について解説します。

未成年者は、家庭裁判所の審判がなくとも一律に制限行為能力者とされ、18歳未満であれば、自動的に制限行為能力者になります。

未成年者が法律行為をするには、原則として親などの法定代理人の同意が必要ですが、法定代理人の同意が不要なケースもあります。

まず一つ目は単に権利を得、又は義務を免れる法律行為です。

単に権利を得るというのは、例えばおばあちゃんが、孫にお年玉を渡した場合です

この場合は、孫は利益を得ているだけなので、特に取り消す必要がないということです

なので、法定代理人の同意は不要になっています、

もう一つは義務を免れる行為、例えば高額な商品を購入してしまった場合の、契約の解除などです。

この場合も、未成年者は自分で行動ができます

法定代理人の同意が不要なケース、2つ目が、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産の消費です。

例えば、お小遣いだったり、このお金で参考書を買いなさい、と言われて、渡されたお金を使うことがこの場合にあたります。

このような場合も、法定代理人の同意は不要になります

次です、法定代理人の同意が不要なケース3つ目

法定代理人から営業の許可を受けている場合、

これは民法第6条に規定されていて、「一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては成年者と同一の行為能力を有する」という条文です。

イメージが湧きにくいのですが、未成年者が特定の営業を行うことを許可された場合、その営業に関する限りは成年者と同様の行為能力を持つという規定です。

営業の許可というのは、親や後見人など法定代理人が、未成年者に対し特定の事業、店を経営するとか、作品を販売するなどを行うことを許可することです。

同一の行為能力というのは、許可された営業に関しては契約を結んだり、財産を処分したりするなど成年者と同様に自由に法律行為を行うことができるという意味です。

未成年者であっても、特定の分野においては自立した経済活動を行うことができ、この場合も法定代理人同意は不要になります。

成年被後見人

次に、成年被後見人について解説します

成年被後見人は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」を指します

常況とは、常に無いという意味です。

重度の認知症患者の人をイメージすると解りやすいと思います

自分で判断することができない人です。

後見開始の審判は、本人や配偶者四親等内の親族、未成年後見人や検察官などの請求を受けて家庭裁判所が行います。

成年被後見人には、家庭裁判所の審判で成年後見人が選任されます。

成年被後見人は、原則として法律行為を自分ひとりでは行うことができません。

法律行為を行うには、後見人の同意が必要になります。同意を得ないで行った法律行為は、取り消すことができます。

取消しできるので後見人だけでありません。

成年被後見人自身も自分で取り消すことができます。

ただし、成年被後見人が取り消すことができない行為もあります。

それは「日用品の購入その他日常生活に関する行為」です。

例えば、歯ブラシを買うとか、文房具を買う、ティッシュを買うなどの行為です

なぜこれが取消できないかというと、こういった小さなことまで取り消しできるようにしてしまうと、相手方がその都度、この人は成年被後見人なのかどうか、確認をする必要が出てきて、大変になるからです

それと、日用品であれば金額が少額で、財産的損失が小さいので、保護を優先しすぎて社会への負担が大きくなるのを防ごうという意図もあります。

成年後見人の権限と義務は以下の表のとおりです。

成年後見人の権限、義務まとめ表

被保佐人

次は、被保佐人について解説します

被保佐人については民法第11条に規定があります。

被保佐人とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」を指します

中度の認知症患者をイメージすると解りやすいと思います

被保佐人は、ほとんどの行為は自分で行うことができます。

しかし、民法が定めている一部の重要な行為については保佐人の同意が必要です。

保佐開始の審判は、後見開始の審判と同じように、本人や配偶者、四親等内の親族後見人や、検察官などの請求を受けて家庭裁判所が行い、審判によって被保佐人が選任されます。

保佐開始の審判に本人の同意は不要ですが、民法が規定している行為以外の特定の法律行為について、代理人に権限を付与する場合には本人である被保佐人の同意が必要になります。

該当する行為は、多額のお金が動いたり、大きく地位が動いたり、高度の判断を必要とする重要な財産上の行為になります

例えば、借財、保証、不動産についての行為、訴訟行為、贈与、和解、仲裁、相続の承認もしくは放棄または遺産分割などの、お金や権利地位が大きな影響を与える行為については、保佐人に同意を得なければいけません

同意を得なければならない行為は他にもあるので、条文をみなさんの方でも読んでみてください

保佐人には、後見人と違って当然に代理権は認めらていないので注意しましょう。

保佐人の権限は以下の表の通りになります。

保佐人の権限、義務のまとめ表
Screenshot

被補助人

次に、被補助人について解説します。

被補助人については民法第15条に規定があります

被補助人は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な人」を指します。

被後見人と被保佐人より判断能力があり、軽度の認知症患者の人をイメージすると解りやすいと思います。

補助開始の審判は、後見や保佐と同じで、本人や配偶者、四親等内の親族、後見人や検察官などの請求を受けて家庭裁判所が行います。

被補助人には、家庭裁判所の審判によって補助人が選任されます

補助開始の審判には本人の同意が必要です。

後見開始と保佐開始と違い、補助開始の審判だけは本人の同意が必要です。

これはなぜかというと、被補助人は本人に一定の弁識能力があるので被補助人の意思を尊重するためです。

また、被補助人については、家庭裁判所は本人や関係者の請求によって「被補助人が特定の法律行為をする時に補助人の同意を得なければいけない」という旨の審判をすることが出来ます

まとめると、被補助人は原則として自分のことは自分で決定できますが、審判によって決められた特定の法律行為をするときには、補助人の同意が必要になります。

補助人の権限、義務は以下の表の通りです。

補助人の権限、義務まとめ表

以上が、制限行為能力者それぞれの特徴になります。

制限行為能力者に関する判例

次は制限行為能力者の判例を紹介します。

知っておきたい2つの判例が

①制限行為能力者の単なる黙秘は詐術にあたらない

②未成年者が取消しをした場合、売買契約は遡及的に無効となり既に履行されていた場合は、不当利得として返還しなければならない。

という判例があります。

次は、制限行為能力者の取消権について、解説します。

制限行為能力者の取消権とは、制限行為能力者が単独で行った法律行為を取り消すことができる権利のことです。 この権利は意思能力が不十分な、制限行為能力者を保護することを目的としています。  

取消権を行使することで、制限行為能力者は不利益な契約や法律行為から解放され財産や権利を守ることができます。

ここで、「無効」と「取消し」の違いについて触れておきます。

無効な契約とは、最初から法律上の効果が発生しない契約のことです。

一方、取消可能な契約は、最初は有効に成立しますが、特定の事情がある場合に取り消すことができる契約のことです。

制限行為能力者の行った法律行為は原則として取消可能というだけで、無効ではないので注意しましょう。

取消権の行使

次は、取消権の行使についてです

取消権を行使できるのは制限行為能力者本人と、制限行為能力者の法定代理人(未成年者の場合は親権者、成年被後見人の場合は成年後見人など)です。

取消権の対象となるのは、制限行為能力者が法定代理人の同意を得ずに単独で行った法律行為です。

具体的には、以下のような行為が挙げられます。

財産の売買: 未成年者が親の同意を得ずに高額なゲーム機を購入する場合など

金銭の貸借: 被保佐人が保佐人の同意を得ずに借金をする場合など

不動産の賃貸借: 成年被後見人が後見人の同意を得ずにアパートを借りる場合など

ただし、制限行為能力者が単に権利を得たり、義務を免れる行為は取消権の対象となりません。

例えば、未成年者がお年玉をもらう行為や被補助人が借金を免除される行為などです。

取消権の行使期間

次は、取消権の行使期間についてです。

取消権の行使期間には、2つの制限があります。

それは、追認できる時から5年、行為の時から20年です。

追認とは、制限行為能力者またはその法定代理人が、取消権の対象となる行為を事後的に承認することです。追認することでその行為は有効となり、取り消すことができなくなります。

取消権を行使するには、相手方に対して、取消しの意思表示をする必要があります。

意思表示は、口頭でも書面でもどちらでも構いません。  

取消権を行使すると、その法律行為は初めから無効になります。 これを遡及効といいます。  

例えば、未成年者が親の同意を得ずに購入したゲーム機を取り消した場合、売買契約は初めから無効となり、未成年者はゲーム機を店に返還し、店は未成年者に代金を返還しなければなりません。

一方で、制限行為能力者は、その行為によって現存利益において、返還の義務を負います

現存利益とは、たとえば、財産を遊びに浪費してしまった場合であればその浪費分を差し引いた残額です。

一方、財産を生活費に浪費したような場合は自己の財産減少を免れているので、生活費を差し引かない金額が現存利益となります。

自分の財産減少を免れているかどうかで異なるので注意しましょう。

このように、契約が取り消された場合相手方は商品や金銭を返還しなければならず、場合によっては損害を被る可能性もあり、取消権の行使は相手方にとっても大きな影響を与えるものになります。

催告権

次は、相手方の催告権についてです

制限行為能力者との契約において、相手方はいつ取消権を行使されるかわからず不安定な立場になります。

このような状況を解消するために、民法は相手方に対して催告権を認めています。

催告権とは、相手方が制限行為能力者側(制限行為能力者本人または法定代理人)に対し、1ヶ月以上の期間を定めて追認するかどうかを回答するよう求めることができる権利です。

催告先によって、確答がない場合の結果が変わるので注意しましょう

被後見人や被保佐人といった、制限行為能力者に、催告を求めて確答がない場合は、その行為を取消したものとみなされます。

一方で、法定代理人や保佐人など、保護機関に催告を求めて、確答がない場合は、その行為を追認したものとみなされます。

これはなぜかというと、保護機関が催告を受けてもそれを放置するということは、有効なままでよいと考えられるからです。

相手方が被保佐人へ催告した場合のイメージは、このような感じです。

被保佐人が催告に対して確答をしなければ、行為を取消したものとみなされます。

保佐人が催告に対して確答をしなければ、追認をしたものとみなされます。

ここまでが、民法の制限行為能力者についての、基礎知識となります。

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