行政法解説

【行政法】瑕疵の治癒について解説 難しくないよ

1. 瑕疵とは

行政法における「瑕疵」とは、行政行為が法律の規定や要件を満たしていない状態を指します。これは、行政行為の主体、内容、手続き、形式など、様々な側面で発生する可能性があります 。瑕疵がある行政行為は、その効力が不安定となり、場合によっては無効と判断されることもあります。  

2. 瑕疵の治癒とは

瑕疵の治癒とは、瑕疵のある行政行為がなされた後に、その欠けていた要件が追完されることによって、その効力を回復することをいいます 。  

例えば、本来であればある委員会の議決を経るべきところを、議決を経ずに作成された農地買収計画が、後に委員会の議決を得て、その効力を維持した事例があります 。  

3. 瑕疵の種類

行政行為における瑕疵は、大きく分けて以下の4つに分類できます 。  

  • 主体の瑕疵: 権限のない者が行った行政行為。例えば、担当部署以外の職員が誤って建築許可を出してしまうケースなどが該当します。
  • 内容の瑕疵: 行政行為の内容が法令に違反している場合。例えば、都市計画法で定められた建ぺい率を超える建築物を許可してしまうケースなどが該当します。
  • 手続の瑕疵: 行政行為の手続が法令に違反している場合。例えば、聴聞の機会を設けずに営業許可の取消処分を行うケースなどが該当します。
  • 形式の瑕疵: 行政行為の形式が法令に違反している場合。例えば、行政処分の理由を付記せずに通知するケースなどが該当します。

4. 行政手続法における瑕疵の治癒

行政手続法は、行政機関の手続きの適正化を図るための法律であり、瑕疵の治癒に関する規定も含まれています。行政手続法1条2項は、個別法に特別の手続き規定がある場合には、その規定が優先されることを定めています 。また、行政手続法3条・4条は、同法の適用除外を定めており、これらの規定により、行政手続法の適用範囲が限定される場合があります 。  

5. 瑕疵の治癒に関する判例

瑕疵の治癒に関する判例をいくつか紹介します。

判例瑕疵の種類治癒の可否理由
最判昭47.12.5形式の瑕疵(理由付記の不備)不可処分理由の提示が不十分なまま処分がなされた場合、その後の審査請求の裁決で処分理由が明らかにされたとしても、瑕疵は治癒されない
岐阜地裁平成6.11.24判決内容の瑕疵(超過差し押さえ)超過差し押さえは瑕疵の治癒が認められる (ただし、後の判例で否定されている)
最高裁平成4.12.10判決手続の瑕疵(理由の提示)不可行政処分の理由の提示は、瑕疵の治癒が認められない

6. 瑕疵の治癒の可否を判断する基準

瑕疵の治癒の可否については、判例・学説ともに様々な見解があります。

  • 重大明白説: 重大かつ明白な瑕疵は治癒できないとする見解 。この見解は、重大な瑕疵は、行政行為の根幹を揺るがすものであり、治癒を認めることは法治国家の理念に反するとの考えに基づいています。  
  • 重大説: 重大な瑕疵は治癒できないとする見解 。重大明白説と同様に、重大な瑕疵は、その後の追完では是正できないほどに違法性が強いという考えに基づいています。  
  • 具体的価値衡量説: 違法の程度、違法な行政行為によって発生する不利益、無効を認定したときに生じる不利益などを総合的に衡量して判断する見解 。この見解は、瑕疵の治癒の可否を一律に判断するのではなく、個々のケースに応じて柔軟に判断すべきであるという考えに基づいています。  

7. 違法行為の転換

違法行為の転換とは、「瑕疵ある行政行為を、別の行政行為として捉え直すことで、適法な行政行為として扱う」解釈上のテクニックです 。例えば、Aという行政行為としては違法であるが、Bという行政行為として捉えれば適法となる場合に、この理論が適用されることがあります。  

違法行為の転換は、行政の柔軟性を高めるというメリットがある一方、法治国家の理念に反するとの批判もあります。そのため、違法行為の転換が認められるためには、厳格な要件を満たす必要があるとされています。

8. 瑕疵の治癒制度の意義と問題点

意義

瑕疵の治癒制度は、行政の効率性と柔軟性を高めることに貢献します。軽微な瑕疵によって行政行為の効力が失われることを防ぎ、手続のやり直しによる時間や費用の無駄を省くことができます 。また、行政庁が迅速かつ柔軟に行政運営を行うことを可能にすることで、国民生活の利便性向上にも繋がります。  

問題点

瑕疵の治癒が認められる範囲が広すぎると、行政の適法性・公正性が損なわれるおそれがあります。また、瑕疵の治癒を認めることで、行政庁が手続を軽視するようになる可能性も懸念されます 。結果として、国民の権利利益が不当に侵害される可能性も否定できません。  

9. 行政実務における瑕疵の治癒の現状と課題

現状

行政実務においては、瑕疵の治癒を積極的に活用することで、行政の効率化を図ろうとする傾向が見られます。例えば、1996年の許認可手続促進法による改正で、連邦行政手続法における瑕疵の治癒の規定が改正され、時間的制限が緩和されました 。  

課題

瑕疵の治癒をどこまで認めるか、その範囲を明確にする必要があります。また、瑕疵の治癒を認める場合でも、国民の権利利益を不当に侵害することがないように、十分な配慮が必要です 。そのため、行政実務においては、個々のケースに応じて、瑕疵の程度や性質、国民への影響などを慎重に検討した上で、瑕疵の治癒を適用するかどうかを判断していく必要があります。  

10. 外国の行政法における瑕疵の治癒制度

ドイツの行政法では、瑕疵の治癒が認められる範囲が、日本の行政法よりも広いとされています。例えば、ドイツ連邦行政手続法には、「解釈替え」という規定があり、瑕疵のある行政行為を別の行政行為として捉え直すことで、適法な行政行為として扱うことができます 。これは、日本における違法行為の転換に類似した概念といえます。  

11. 瑕疵の治癒制度の今後の展望

瑕疵の治癒制度は、今後も行政の効率性と柔軟性を高めるために重要な役割を果たしていくと考えられます。ただし、その適用範囲や要件については、国民の権利利益の保護の観点から、慎重な検討が必要です 。特に、情報技術の発展や社会情勢の変化に伴い、行政手続きはより複雑化・多様化していくことが予想されます。そのため、瑕疵の治癒制度についても、時代の変化に対応した柔軟な運用が求められるでしょう。  

12. 結論

行政法における瑕疵の治癒は、行政の効率性と柔軟性を高めるための重要な制度です。ただし、瑕疵の治癒が認められる範囲が広すぎると、行政の適法性・公正性が損なわれるおそれがあるため、その適用範囲や要件については、慎重な検討が必要です。今後も、国民の権利利益の保護と行政の効率性とのバランスを図りながら、瑕疵の治癒制度の適切な運用が求められます。ソースと関連コンテンツ

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