コラム

リニア問題についてわかりやすく解説 静岡とJR東海の長き闘い

リニア新幹線

リニア中央新幹線は、東京・名古屋間を最高速度505km/hで結ぶ、日本の未来を担う高速鉄道計画です。国土計画「国土のグランドデザイン2050」の中で、東京圏、名古屋圏、大阪圏をひとつの都市圏として形成するスーパーメガリージョン構想の最も主要なツールとして位置づけられています。 しかし、その建設に伴い、静岡県では深刻な環境問題が懸念されています。これが「静岡県のリニア問題」です。  

静岡県を貫く南アルプスの地下をトンネルで通過する計画ですが、このトンネル工事が大井川の水資源や南アルプスの豊かな生態系に悪影響を与える可能性が指摘されているのです。 静岡県は、JR東海に対し、環境への影響を最小限に抑える対策を求めていますが、両者の主張には隔たりがあり、協議は難航しています。  

静岡県におけるリニア中央新幹線のルートと環境問題

リニア中央新幹線は、静岡県内では、北部の南アルプスを貫く全長約8.9kmのトンネルで通過する計画です。 この南アルプスは、ユネスコエコパークにも登録されている貴重な自然の宝庫であり、多様な動植物が生息しています。 また、大井川は、静岡県民にとって生活用水や農業用水として欠かせない重要な水源です。  

しかし、トンネル工事によって以下の様な環境問題が生じる可能性が懸念されています。

  • トンネル湧水による大井川の水資源への影響: トンネル掘削により、地下水が大量に湧き出し、大井川の流量が減少する可能性があります。  
  • 生物多様性への影響: トンネル工事による地下水位の低下や、工事による騒音・振動などが、南アルプスの動植物の生息環境に悪影響を与える可能性があります。 特に、希少な動植物への影響は深刻です。加えて、JR東海は発生土を公共事業などで利用するとしていますが、処分先が決定しているのは全体の2割で、かなりの土砂をどこかに仮置きせざるを得ません。仮置きの土砂が南アルプスの景観を損なうだけでなく、大雨で流出や土砂崩れを起こし、人の暮らしと環境に被害を与える懸念があります。  
  • トンネル発生土による環境への影響: トンネル工事では、大量の発生土が出ます。 この発生土の処分方法によっては、周辺の環境や景観を損なう可能性があります。  

南アルプスのトンネル工事と大井川の水資源への影響

南アルプスのトンネル工事は、地質構造が複雑で、最大深度1400mに達する難工事です。 そのため、トンネル掘削によって大量の地下水が湧き出すことが予想されます。 この湧水は、大井川の流量減少に繋がり、生活用水や農業用水、さらには発電用水にも影響を及ぼす可能性があります。  

静岡県は、JR東海に対し、トンネル湧水による大井川の水資源への影響を回避・低減するための対策を要求しています。 具体的には、以下の点が課題として挙げられます。  

  • 湧水の量: JR東海は、ボーリング調査などにより地質状況を把握し、薬液注入などの対策を講じることで湧水の量を低減するとしています。 しかし、静岡県は、これらの対策だけで十分な効果が得られるのか疑問視しており、より詳細なデータの開示や、より確実な対策を求めています。  
  • 水質への影響: トンネル工事によって、湧水の成分が変化し、大井川の水質が悪化する可能性があります。 特に、重金属などの有害物質の溶出が懸念されます。  
  • 生態系への影響: 湧水の温度や水量が変化することで、大井川の生態系に影響を与える可能性があります。 特に、希少な魚類への影響が懸念されます。  
  • 湧水の全量戻し: JR東海は、トンネル湧水を全量大井川に戻すとしていますが、具体的な方法や、戻した水が水質や生態系に与える影響については、十分な説明がなされていません。 また、静岡県はJR東海が提示した「田代ダム案」のスキームを了解しましたが、具体的にはこれからの議論となっています。  

静岡県とJR東海との間の協議の状況、および両者の主張の違い

静岡県とJR東海は、2013年からリニア中央新幹線の環境影響評価に関する協議を続けています。 しかし、両者の主張には大きな隔たりがあり、協議は難航しています。  

静岡県側の主張は以下の通りです。

  • 大井川の水資源への影響回避: トンネル工事によって、大井川の流量や水質が変化し、県民生活や経済活動に影響を与えることは許容できません。 JR東海は、湧水の全量を大井川に戻すことを約束し、具体的な方法や影響について詳細なデータを示すべきです。  
  • 南アルプスの環境保全: 南アルプスは、貴重な自然の宝庫であり、その生態系を保全することは、静岡県の責務です。 JR東海は、工事による環境への影響を最小限に抑えるための対策を講じるべきです。  
  • 情報公開: JR東海は、工事に関する情報を積極的に公開し、県民の理解を得る努力をすべきです。 不透明な情報公開は、県民の不安を増大させるだけです。  

一方、JR東海側の主張は以下の通りです。

  • 2027年開業: リニア中央新幹線は、国家的なプロジェクトであり、2027年の開業を目指して工事を進める必要があります。 静岡県は、工事に協力し、早期開業に貢献すべきです。  
  • 環境影響評価: JR東海は、環境影響評価法に基づき、環境への影響を十分に評価した上で工事を進めています。 静岡県の要求は、過剰なものであり、受け入れることはできません。  
  • 企業の自主性: JR東海は、民間企業であり、工事の進め方について、静岡県から過度な干渉を受けるべきではありません。

このように、両者の主張には大きな隔たりがあり、協議は難航しています。 その背景には、経済発展を優先するJR東海と、環境保全を重視する静岡県という、それぞれの立場や優先事項の違いがあると考えられます。 国土交通省は、有識者会議を設置し、両者の対話を促進しようと試みていますが、具体的な進展は見られていません。  

政治的背景

静岡県のリニア問題を語る上で、欠かせないのが政治的な背景です。長年、リニア問題に正面から向き合ってきた川勝平太知事は、JR東海との対立姿勢を鮮明にしてきました。しかし、2024年4月、知事は「一区切りついた」として辞職を表明しました。 知事選ではリニア問題が争点の一つとなり、後任の知事の姿勢によって、今後のリニア問題の行方が大きく左右される可能性があります。  

リニア問題の現状と今後の見通し

2023年12月現在、リニア中央新幹線の静岡工区の着工は、依然として認められていません。 JR東海は、2027年の開業を断念せざるを得ない状況となっています。  

静岡県は、JR東海に対し、引き続き、大井川の水資源や南アルプスの環境保全のための対策を求めていく方針です。 一方、JR東海は、静岡県との協議を継続しながら、工事を進めるための方法を模索していくものと思われます。  

リニア問題の今後の見通しは、依然として不透明です。 両者が歩み寄り、合意形成に至る道筋を見つけることができるのか、今後の動向が注目されます。  

計画の遅延は、経済的な損失だけでなく、リニア開通による経済効果や利便性の享受が遅れることにも繋がります。 また、工事の長期化は、環境への影響を増大させる可能性も懸念されます。  

結論

静岡県のリニア問題は、単なる地域の問題ではなく、日本の未来を左右する重要な問題です。リニア中央新幹線は、日本の経済活性化や国際競争力強化に大きく貢献する可能性を秘めていますが、同時に、環境への影響も無視できません。

静岡県とJR東海は、それぞれの立場を尊重し、真摯な対話を通じて、問題解決に努める必要があります。 そのためには、科学的な根拠に基づいた議論を行い、情報公開を徹底することが重要です。  

この問題は、経済発展と環境保全という、現代社会における普遍的な課題を浮き彫りにしています。リニア中央新幹線計画は、単に移動手段の革新にとどまらず、持続可能な社会の実現に向けた取り組みの試金石となるでしょう。

静岡県とJR東海、そして国土交通省は、それぞれの役割と責任を自覚し、未来の世代に誇れる決断を下すことが求められています。

静岡県のリニア問題に関する参考文献・ウェブサイト

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