憲法判例

【憲法判例】船橋市西図書館蔵書破棄事件をわかりやすく解説

本

船橋市西図書館蔵書破棄事件は、船橋市西図書館の女性司書だったAが、自らの政治思想によって独断で107冊の書籍を廃棄した事件です。

憲法の思想・表現の自由の著名な判例です。

事件の概要

2001年8月、船橋市西図書館に勤務していた司書Aは、「新しい歴史教科書をつくる会」関係者など特定の著者の著作物107冊を、図書館の蔵書リストから除籍し廃棄しました 。

廃棄された書籍には、西部邁氏の著書44冊、渡辺昇一氏の著書25冊が含まれていました 。

他にも、西尾幹二、福田和也などの著書が含まれ 、いずれも歴史認識問題や政治思想に関わるものでした。

Aは、これらの書籍を自らの政治思想に基づき廃棄しました。

その後、2002年4月12日付けの産経新聞の報道によって事件が発覚。

著者8名と「つくる会」は、本件廃棄によって著作者としての人格的利益等を侵害されて精神的苦痛を受けたとして、2002年8月13日に船橋市に対して国家賠償法1条1項に基づき、また職員Aに対して民法715条に基づき、慰謝料の支払を求めて東京地裁に提訴しました。

事件の背景と判決

この事件の背景には、当時の歴史認識問題をめぐる激しい論争や、図書館における選書・除籍基準の曖昧さが指摘されています。

司書Aは、自らの政治思想に基づき、特定の著者の書籍を排除しようとしました。

当時は明確な基準や手続きが整備されていなかったので、Aの独断的な行為を招いてしまったと言えます。

最高裁判決は、

「公立図書館は住民に情報提供を行う公的な場であり、図書館職員は個人的な好みにとらわれず、公正に資料を取り扱う義務を負う」としました 。

そして、「Aの行為は著作者の人格的利益を侵害するものであり、国家賠償法上違法である」と判断しました。

事件の影響とその後

この事件は、図書館における選書・除籍のあり方、図書館職員の倫理、表現の自由など、多くの課題を提起しました。

事件後、日本図書館協会は、宣言と「図書館員の倫理綱領」の重要性を再確認し、全国の図書館に改めて周知しました 。

また、多くの図書館で選書・除籍基準の見直しや職員研修などが行われました 。

船橋市は、事件を受けて関係職員への聞き取り調査を行い、当該職員を減給処分とし、図書館長と教育委員会の管理職を厳重注意処分としました。さらに、廃棄された103冊の図書と品切れのため代替となった4冊の図書が、当該職員などからの寄付により図書館に返還されました 。  

蔵書をめぐるトラブルは他にもある

図書館における蔵書をめぐるトラブルは珍しくありません。

例えば、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の加害者である元少年が書いたとされる手記『絶歌』の図書館での取り扱いについては、全国で、賛否両論が巻き起こりました。

凄惨な事件だったため、市民からは「絶歌」の蔵書に反対する声が多数寄せられました。

2015年6月29日、日本図書館協会図書館の自由委員会は、文書「図書館資料の収集・提供の原則について(確認)」を公表しました。

図書館資料の収集・提供の原則について(確認)(日本図書館協会 図書館の自由委員会)
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/jiyu/cmnt201507.html

文書では「図書館の自由に関する宣言」に基づき、同宣言では収集の制限に首肯していないこと、また提供制限を行うことがありうる3要件を確認した上で、「各図書館におかれては,以上に示した原則に照らして日頃から主体的にご判断いただいているものと考えますが、本件は上記の提供制限要件には該当しないことを念のため申し添えます」としています。

閲覧制限を設けた上で貸出を再開した図書館が多かったそうです。  

「絶歌」事件と船橋市西図書館蔵書破棄事件は、どちらも図書館における選書の自由と、市民の感情や倫理観とのバランスが問われた事例と言えます。

これらの事件は、図書館が、多様な価値観が共存する社会において、どのように資料を提供していくべきか、その難しさを示しています。

まとめ

この事件は、図書館が単に書籍を保管する場所ではなく、市民の知る権利を保障し、多様な情報へのアクセスを提供する重要な役割を担っていることを改めて認識させました。

図書館は、多様な情報に触れることができる場であると同時に、公正・中立な立場を保つべき公共施設です。

この事件と最高裁判決は、図書館員に、資料の選書・除籍において個人的な思想信条を排除し、公正中立な立場を維持することの重要性を示しました。

また、図書館に対し、選書・除籍基準を明確化し、市民に公開すること、職員の倫理教育を徹底すること、市民への説明責任を果たすことなど、透明性の高い図書館運営を求める契機となりました。

参考文献

図書館問題研究会ー『絶歌』問題を機に図書館の自由について考え、行動しよう

日本図書館協会. (2002). 船橋市西図書館蔵書破棄事件に関する声明.

日本図書館協会. (2005). 船橋市西図書館蔵書破棄事件最高裁判決について(会長談話)

船橋市西図書館蔵書破棄事件 - Wikipedia.  

最高裁判決URL:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52410

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