準消費貸借とは
準消費貸借とは、金銭その他の代替物を給付する義務を負う者がある場合に、当事者がその物をもって消費貸借の目的とすることを約する契約のことです 。 簡単に言うと、もともと別の債務(例えば、売買代金や損害賠償金など)があったものを、当事者間の合意によって、金銭の貸し借りという形(消費貸借)にすることです。
例えば、AさんがBさんに商品を100万円で売却したとします。BさんはAさんに100万円を支払う義務がありますが、手持ちのお金が不足しているため、AさんとBさんの間で、この100万円の売買代金をAさんからBさんへの100万円の貸付金とみなす、という合意をすることができます。これが準消費貸借です。
国税庁のホームページでは、売買代金を借金に改めるようなものや、既存の消費貸借上の債務をもって新たな消費貸借の目的とする場合を例として挙げています 。
準消費貸借と消費貸借の違い
準消費貸借と消費貸借は、どちらも金銭の貸し借りという意味では同じですが、その発生原因が異なります。
消費貸借は、最初から金銭の貸し借りを目的として契約が成立します。例えば、Cさんが銀行から100万円を借りる場合などです。一方、準消費貸借は、別の契約(売買契約など)に基づいて発生した債務を、後から消費貸借に転換するものです 。
項目 | 消費貸借 | 準消費貸借 |
---|---|---|
発生原因 | 当初から金銭の貸し借り | 別の契約に基づく債務 |
例 | 銀行からお金を借りる | 売掛金を借金に改める |
準消費貸借の法的性質
準消費貸借は、民法588条に規定されています。この条文では、「金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。」とされています。
つまり、準消費貸借は、当事者間の合意によって、既存の債務を消費貸借に転換させる法的効果を持つということです。
しかし、ここで疑問が生じます。準消費貸借によって、元の債務はどうなるのでしょうか? 例えば、先ほどのAさんとBさんの例で考えると、100万円の売買代金債務は消滅して、新たに100万円の貸金債務が発生するのでしょうか? それとも、売買代金債務は残ったまま、それに加えて貸金債務も発生するのでしょうか?
学説上では、この点について、(1) 既存の債務が消滅して新たな債務が発生するという説と、(2) 既存の債務は存続したまま消費貸借の規定が適用されるという説の二つがあります 。 判例は、当事者の意思が明らかでない場合には、(2) の既存の債務は存続したまま消費貸借の規定が適用されるとする立場をとっています 。
準消費貸借は、債務整理の手段として有効に活用できますが、一方で、違法な行為を隠蔽するために利用されるリスクも存在します。例えば、法律で認められない高金利での貸付を、売買契約を装って行い、その後、準消費貸借契約を締結することで、高金利の貸付を隠蔽するといったケースが考えられます 。
準消費貸借の具体例
準消費貸借の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 売買契約において、買主が代金を支払えない場合に、売主がその代金を貸し付けることとし、準消費貸借契約を締結する。
- 請負契約において、注文者が請負代金を支払えない場合に、請負人がその代金を貸し付けることとし、準消費貸借契約を締結する。
- 賃貸借契約において、賃借人が賃料を支払えない場合に、賃貸人がその賃料を貸し付けることとし、準消費貸借契約を締結する。
- 会社が従業員に対して給料の支払いを遅延した場合に、その給料を貸し付けることとし、準消費貸借契約を締結する。
準消費貸借に関する判例
準消費貸借に関する判例としては、以下のようなものがあります。
- 準消費貸借契約において、旧債務の不存在を事由として右契約の効力を争う者は、旧債務の不存在の事実を立証する責任を負う (最高裁昭和36年12月28日判決) 。 この判例は、準消費貸借契約が有効に成立するためには、その基礎となる債務(元の債務)が存在することが必要であり、もし債務者が「そもそも元の債務は存在しなかった」と主張して準消費貸借契約の無効を主張する場合には、債務者側がその事実を証明しなければならない、ということを示しています。
準消費貸借のメリット
準消費貸借には、以下のようなメリットがあります。
- 債務整理 複数の債務を準消費貸借によって一本化することで、債務管理が容易になります。また、売掛金のように、発生原因や時期が異なる複数の債権を準消費貸借に一本化することで、債権管理を効率化することもできます。
- 消滅時効の延長 準消費貸借によって、消滅時効が延長される場合があります。例えば、売買代金債権の消滅時効は2年ですが、準消費貸借契約を締結することで、貸金債権の消滅時効である10年が適用されることになります。
参考文献
準消費貸借に関する参考文献としては、以下のようなものが挙げられます。
- 我妻栄・有泉亨・川井健著『新訂民法総則』(勁草書房、2005年)
- 内田貴著『民法Ⅰ総則・物権総論』(東京大学出版会、2008年)
- 金融法務事情 No.2240号(きんざい、2020年)
結論
準消費貸借は、既存の債務を消費貸借に転換させる契約です。 これは、債務整理や消滅時効の延長などのメリットがあり、売掛金の回収や債務の一本化などに活用することができます。 一方で、違法な行為を隠蔽するために利用されるリスクも存在します。 準消費貸借契約を締結する際には、当事者間の合意を明確にし、契約内容をしっかりと確認することが重要です。 また、準消費貸借によって元の債務が消滅するのか、それとも存続するのか、といった法的性質についても理解しておく必要があります。