生活保護は、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための公的扶助制度です。
厚生労働省は、「資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方」に、「困窮の程度に応じて必要な保護を行う」としています。
生活保護を必要とする可能性のある人の申請行為は国民の権利です。
やむを得ない事情がある方は、堂々と申請しましょう。
目次
生活保護とは
生活保護の目的は、経済的な困窮の程度に応じて必要な保護をおこない、その人の自立を支援することです。
運用時の基本原理や原則は、生活保護法に基づきます。
まずは、生活保護とはどのようなものなのか、仕組みや条件について解説します。
生活保護の仕組み
生活保護では、原則として世帯(一緒に暮らしている家族)を一つの単位として考えます。
世帯の「最低生活費」の金額と「世帯の収入」を比べて、最低生活費よりも収入が低い場合に不足額が支給される仕組みです。
ここでの最低生活費には、家賃や食費、医療費など、生活に必要なものが含まれます。
また、世帯の収入とは下記を差します。
- 労働して得たお金
- 親やきょうだい、親戚からの仕送り
- ほかの法律によって支給されるお金
- 資産を売って得たお金
- 資産を貸して得たお金 など
仕事をして収入を得ている場合も、生活保護を申請することは可能です。
ただし、収入の合計額が最低生活費を上回る場合、生活保護の制度は利用できません。
生活保護の種類と内容
生活保護には、8種類の扶助があります。
内容 | 支給方法 | |
---|---|---|
生活扶助 | 食費、被服費、光熱費などの一般的な生活費 | 口座振込 |
住宅扶助 | 自宅の家賃や地代など住居にかかる費用 | 口座振込 |
教育扶助 | 制服や教科書などの学用品や授業料など就学に必要な費用 | 口座振込 |
医療扶助 | 通院代や入院費など医療にかかる費用 | 医療機関へ振込 |
介護扶助 | 入浴介護やリハビリなど介護サービスを利用する費用 | 介護施設へ振込 |
出産扶助 | 分娩料や入院代など出産時に必要な費用 | 口座振込 |
生業扶助 | 商売を始めるための技能取得費用、作業着などの就職支度費 | 口座振込 |
葬祭扶助 | 葬式や通夜式、法事など葬祭にかかる費用 | 口座振込 |
これらの扶助を、必要に応じて組み合わせた額が支給されます。
そのため、生活保護で支給される額は誰もが同じ金額ではありません。
それぞれの種類と内容について、順番にご紹介します。
1.生活扶助
生活扶助は、食費や衣類、光熱費など日常生活の中で必要となる需要への扶助のことです。
基準生活費(第1類・第2類)と各種加算とに分けられており、第1類は個人ごとの飲食や衣服・娯楽費等の費用、第2類は世帯として消費する光熱費等とされています。
基準生活費は世帯人数や年齢、住居のある場所などによって定められている生活費の基準です。
世帯の需要に応じて増額される加算は
- 妊産婦加算
- 母子加算
- 障害者加算(重度障害者加算、重度障害者家族介護料、在宅重度障害者介護料
- 介護施設入所者加算
- 在宅患者加算
- 放射線障害者加算
- 児童養育加算
- 介護保険料加算
の8つがあります。
2.住宅扶助
生活保護を受給する世帯が暮らす住居の費用が支給されます。
賃貸の場合は毎月の家賃、持ち家の場合は住宅の修理費などが該当します。
家賃は金銭給付となり、住んでいる地域によって上限が定められています。
3.教育扶助
小学生や中学生の子どもの義務教育にかかる費用が、原則として金銭で支給されます。
4.医療扶助
病気やケガにより、治療を必要とする場合に支給されます。
国民健康保険や後期高齢者医療制度からは脱退となり、原則として現物支給(投薬、処置、手術、入院等の直接給付)により行われ、その治療内容は国民健康保険と同等とされています。
5.介護扶助
介護保険サービスを利用する際に必要な費用を支給(現物給付)します。
生活保護の有無にかかわらず、65歳以上の人(第1号被保険者)と、40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)は、介護保険の被保険者です。
介護保険とは、介護が必要な方に、その費用を給付する保険制度です。
介護保険の被保険者の場合、自己負担分の1割が生活保護から給付されます。
また、被保険者以外である場合、介護にかかる費用は、介護扶助によって10割全額が賄われます。
6.出産扶助
出産に伴い必要な入院費となる検査費、衛生材料費(ガーゼや包帯など)が原則として金銭で支給されます。
生活保護受給中の方が妊娠して出産する場合に加えて、生活保護を受給する前に妊娠していた方が生活保護受給開始後に出産する場合も適用されます。
つまり、出産時期に生活保護を受給していれば、どなたでも出産扶助が適用されます。
7.生業扶助
生業に必要な資金、器具や資材を購入する費用、又は技能を修得するための授業料や教材費、就労のための支度費用(運転免許証)等が必要な時に行われる扶助で、原則として金銭で給付されます。
高校就学費も支給されますが、修学旅行費、クラブ活動費、学習塾の費用は含まれません。
また、大学や専門学校の受験料や学費は対象となりません。
8.葬祭扶助
最低限の葬儀費用が、原則として金銭により支給されます。
生活保護の申請条件
生活保護制度を申請するには、4つの条件を満たす必要があります。
条件の内容は、以下の通りです。
- 世帯収入が最低生活費を下回る
- 家族などの身内から支援を受けられない
- 病気やケガによって働けない
- 物件や車などの資産を持っていない
生活保護を申し込むにはすべての条件を満たしていなければならず、単に「お金が足りない」というだけの理由では、受給できません。
生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提でありまた、扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先します。
引用元:厚生労働省 |生活保護制度
病気やケガなどに働けなくなった場合や、最低限の生活を維持するための収入が確保できない場合に生活保護を受けられます。
生活保護を受けるか考えている方は、自分が申込条件に該当しているか確認してみましょう。
世帯収入が最低生活費を下回る人は生活保護の受給対象
世帯収入が最低生活費を下回る人は、生活保護を申請できます。
最低生活費とは、日本国憲法第25条で保障される「健康で文化的な最低限度の生活」を送るために必要な費用として、厚生労働省が毎年算定する生活費のことです。
たとえば東京都内で一人暮らしをしている場合、最低生活費は13万円に指定されます。
申請者の世帯月収が13万円以下であれば、生活保護の申請が可能です。
最低生活費は住んでいる場所や、世帯内で生活している人数によって変動します。
最低生活費を算出する計算式は、以下の通りです。
(最低生活費)=(生活扶助基準)+(生活扶助本体日の経過的加算)+(加算額)+(その他扶助)
生活保護の申請条件が満たせているか不安な人は、よく確認しておいてください。
家族などの身内から支援を受けられない人も申込可能
家族などの身内から支援を受けられない方も、生活保護を受けられます。
通常、親族から経済支援を受けられる場合は、生活保護の対象外です。
扶養義務者から支援を受けている人も、なんらかの事情がある場合は生活保護を申請できます。
実際に生活保護法第4条によると、以下の通り定められています。
(保護の補足性)
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。引用元:e-gov法令検索|生活保護法
親族から生活するのに十分な支援を受けている方は、生活保護を利用できません。
ただし、収入が最低生活に満たない場合は保護の申請が可能です。
自分の収入が最低生活費に満たしているか確認したい場合は、最低生活費の算出方法を確認しましょう。
病気やケガで働けない人も生活保護の対象となる
生活保護は収入が少ない人だけでなく、病気やケガなどの理由で働けない人も申請できます。
ただし病気やケガで働けない人が生活保護を申請するには、まずは別の制度を利用するのが必要条件です。
病気やケガなどが発生した時は、以下の制度が利用できます。
- 傷病手当金
- 傷病手当
- 失業手当
- 老齢年金
- 障害年金
- 遺族年金
例えば、病気やケガで会社を休んだ方や就業できない方は傷病手当金が利用できます。
ただし生活保護は、最低生活費を手に入れるための最終手段です。
他の制度で最低生活費を確保できる場合、生活保護による支援は受けられません。
物件や車などの資産を持つ人は受給の対象外となる
物件や車などの資産的に価値のあるものを所有している場合は、生活保護を申請できません。
資産価値がある品物に該当するものは、以下の通りです。
- 労働による給料、賃金
- 車
- 持ち家
- 申請者や親族が居住していない土地
- 貯金
- 相続によって得たお金
- 年金
- 保険金
- 生命保険、医療保険、学資保険など返戻金の発生する保険
- 失業保険や退職金などの手当
- 仕送りまたはお小遣い
- 物品の売却によって得たお金
- 公的融資制度または民間金融機関で借りたお金
- 融資を受けられるローンカード
生活保護は、資産を売っても生活費が確保できない場合にのみ利用できます。
自宅に資産価値のある品物が一つでもあると、生活保護を申請するのは難しいです。
特に物件などの資産価値が高いものは、審査で不利な材料となります。
これから生活保護を申請する人は、資産価値が高い品物の売却手続きを進めておいてください。
資産をどうしても残したい方は、生活保護とは違う方法でお金借りるのがおすすめです。
生活保護の受給金額について
生活保護の受給金額の計算方法や受取方法について解説します。
生活保護の受給金額の計算方法
生活保護の受給金額の計算方法は下記の通りです。
- 生活保護費=最低生活費₋世帯全体の収入
例えば、最低生活費が13万円の世帯に、4万円の収入がある場合は「13万円 – 4万円 = 9万円」が生活保護として支給されます。
最低生活費の額は、8種類の扶助(あてはまる項目のみ)の合計金額です。
また、最低生活費を計算する際に基準となる、生活保護基準は毎年改定されています。
生活保護費の受け取り方法
生活保護は、各自治体が定めた支給日に、銀行振込、または福祉事務所の窓口で受け取ります。
生活保護の申請手続きの流れ
生活保護の申請から受給までの流れは、下記の通りです。
- 相談
- 申請
- 調査
- 受給開始
市町村により異なりますが、申請から2週間程度で受給決定がされる場合が多いです。
各段階ごとに、解説していきます。
1.相談
お住いの地域の福祉事務所の窓口へ行き、生活保護の申請を考えている旨を伝えます。
相談の段階では、生活状況や世帯収入、資産の状況、ほかの制度で対応できないか、などの確認を受けます。
2.申請
福祉事務所にある申請書類に記入し、提出します。
申請時には、本人確認書類のほか、状況に応じて、収入や資産状況を証明する書類の提出を求められることもあります。
なお、何らかの事情で本人が申請できないことは、親族などが代理で申請することもできます。
4.調査
申請後、生活保護の受給可否を決めるための調査
生活保護と資産の関係
生活保護の申請を受けると、銀行や生命保険会社などに資産調査を行います。預貯金、生命保険、土地家屋、自動車、高価な貴金属など売却や活用が可能な資産がある場合には、その資産を売却して最低生活費に充てていただくこともあります。
ただし、居住用の不動産は原則として保有が認められます。また、個別の事情によっては、自動車やオートバイ、生命保険、学資保険の保有が認められる場合もありますので、相談してください。
能力の活用
働ける能力があるかたは、その能力に応じて働く必要があります。ただし、病気や障がい、その他の理由で働けないかたは、その問題解決を優先とします。
なお、求職活動をするにあたり、就労支援や職業訓練等の支援も行っています。
扶養義務について
親、子ども、兄弟姉妹などの民法上の扶養義務のあるかたから援助を受けることができる場合は受けてください。
なお、親族の扶養は、可能な範囲の援助を行うものであり、援助可能な親族がいることで、生活保護の利用ができないということにはなりません。
また、長期にわたり連絡を取っていない場合や、DV(家庭内暴力)や虐待など特別な事情がある場合には、親族への照会を見合わせることもあるため、事前に相談してください。
ほかの制度の活用
生活保護以外にも年金、各種手当、医療助成、社会保障制度など、生活を支えるためのさまざまな公的な制度があります。活用が可能な制度がある場合には、それらを優先して活用していただきます。がおこなわれます。
- 生活状況の確認(自宅訪問)
- 働く能力の有無
- 扶養調査
- 預金残高など資産の調査
- 借金に関する調査 など
主に上記の項目に関しての確認があると考えておきましょう。
※福祉事務所は、個人の資産や家族について、調べることができる権限を持っています。
生活保護の申請後、基本的には14日以内に保護が必要かどうかが決定します。
結果は郵送もしくは電話で通知されます。
5.受給開始
生活保護の受給が決まったら、担当者から受給に関する説明を受けます。
また、生活保護受給中は、定期的に担当者が自宅を訪れ、相談に乗ったり、必要に応じて指導や援助をしたりします。
生活保護の相談・申請窓口は?
生活に困ったときに相談できる窓口をご紹介します。
福祉事務所
各市町村にある福祉事務所は生活保護を申請する窓口です。
また、申請だけでなく、生活についてケースワーカーに相談することもできます。
ケースワーカーとは、身体・精神・社会上などさまざまな理由により、生活が困窮している人の相談に乗り、支援をおこなう職種のことです。
「自分は生活保護の申請条件を満たすのか?」など、生活保護制度に関する不明点や気になる点がある場合は、遠慮なく質問しましょう。
生活困窮者自立支援制度の窓口
2015年からはじまった「生活困窮者自立支援制度」により、生活における困りごとを相談できる窓口が全国に設置されました。
相談内容の例としては、下記が挙げられます。
- 住む場所がない(なくなりそう)
- 社会との関わりに不安を感じている
- 働きたいのに仕事が見つからない
- 病気で働けない
- 家族のことで悩みがある など
窓口では、相談内容に合わせて、一人ひとりに合った支援プランを作成してくれます。
生活保護の専用相談窓口ではありませんが、相談者の状況によっては、福祉事務所へ連絡をとってくれることもあります。
相談窓口の場所に関しては、厚生労働省が公表している資料をご覧ください。
参考
法律に関する専門家
必要に応じて、法律に関する専門家の力を借りましょう。
例えば、日本弁護士連合会は、生活保護を受給できる条件を満たしながらも、障害などにより申請することが難しい方へ対して、弁護士費用を援助する支援をおこなっています。
また、日本司法支援センター(法テラス)では、経済的に余裕がない方がトラブルにあったときに、無料で法律相談を受けたり、弁護士費用の立替えをおこなったりしています。
民生委員
民生委員は非常勤の地方公務員で、地域の身近な相談相手として話を聞いたり、支援をしたりしています。
子育てや介護に関する悩みのほか、日々の生活に関する相談も受け付けています。
民生委員には守秘義務があるため、相談した方の秘密は守られます。
民生委員について詳しく知りたい場合は、お住まいのエリアの市町村へお問い合わせください。
民間の支援団体
生活に困っている方の支援をする民間の団体は全国各地に数多く存在しています。
なかには、一緒に生活保護の申請へ行ってくれる団体もあります。
ボランティアでおこなっているところもあれば、営利目的の団体もあり、数が多いため、依頼する場合は、信頼できるかどうか慎重に見極めましょう。
生活保護のまとめ
生活保護制度は、条件を満たす方は誰でも申請することができる制度です。
しかし「生活は苦しいけれど、自分に申請する資格があるのかわからない」「相談しても断られてしまうのでは?」などのお悩みを抱えている方も多いはずです。
そのような場合も、まずは一度、お近くの福祉事務所へ問い合わせてみるとよいでしょう。
また、生活や仕事に関するお悩みは、一人で抱え込まず、自立相談支援機